No.5064 (2021年05月15日発行) P.64
楠 隆 (龍谷大学農学部食品栄養学科小児保健栄養学研究室教授、滋賀県立小児保健医療センター小児科非常勤医師)
登録日: 2021-04-28
最終更新日: 2021-04-28
近年、ピーナッツ、鶏卵、牛乳などアレルゲンとなり得る食品を乳児期早期から摂取し始めることが食物アレルギーの予防につながる可能性がある、とのエビデンスが蓄積され、「アレルギーが心配だから食べさせない」ではなく「アレルギーにならないために食べさせる」へとパラダイムシフトが起こっています。また食物アレルギーを発症した子どもに対しても、「必要最小限の除去」という考え方のもとで症状を誘発しない範囲で少しずつ増量しながら食べさせる経口免疫療法(あるいは食事指導)が推奨されています。我々も安全摂取可能量から開始して段階的に増量していく「食べさせるアプローチ」を行った成績を発表しました1)。しかし一方で、経口免疫療法はアナフィラキシーを誘発するリスクが高まるため危険であるとの指摘もあります2)。このような二面性を持った治療ないし栄養指導を行うべきかどうかという正解のない判断は、医療者側だけで行うべきではなく患者側と医療者側が共同で方針決定に関わるべきである、と考えます。これをshared decision making(SDM、日本語では共有意思決定)と呼びます。
患者の立場で考えると、多少のリスクはあっても何とか食べられるようになりたいと思う人もいれば、リスクを冒してまで食べなくても良いと思う人、あるいは完全解除までいかなくてもうっかり誤食したときのアナフィラキシーリスクを減らしたい、と思う人もいるでしょう。SDMにおいては必要な情報の流れは医療者と患者の間で双方向性であり、その内容は医学的なもの以外に患者個人の好み、価値観なども含まれます。まだ自分で意思決定ができない乳幼児の患者では、保護者との話し合いが重要となります。最近になって食物アレルギー診療におけるSDMを検討した論文が次々と発表されており、これからの食物アレルギー診療を語る上で欠くことのできないキーワードになると思われます。詳細は総説3)に記載しましたので興味ある方はご一読下さい。
【文献】
1)楠 隆, 他:日小ア誌. 2018;32:762-71.
2)Chu DK, et al:Lancet. 2019;393:2222-32.
3)楠 隆:日小ア誌. 2021;35:8-13.
楠 隆(龍谷大学農学部食品栄養学科小児保健栄養学研究室教授、滋賀県立小児保健医療センター小児科非常勤医師)[経口免疫療法]