No.5064 (2021年05月15日発行) P.56
白木公康 (千里金蘭大学副学長、富山大学名誉教授(医学部))
登録日: 2021-04-30
最終更新日: 2021-04-30
藤田医科大が行ったファビピラビル(アビガン®)観察研究の中間報告で新たな副作用は認められなかったため1)、私は昨年6月、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対してインフルエンザのように早期に治療を開始し肺炎等を予防するファビピラビルの治験を富士フイルム古森会長に提案し、了解いただいた。しかし、それが実施されなかったのは残念であった。昨年から米国スタンフォード大でファビピラビルの臨床試験が行われ、近々、「早期投与によるウイルス消失、重症化阻止、症状停止等」の結果が発表される。ロシア製ファビピラビルの市販後調査(940名)では、発症から投与までの中央値は4日で、治療群は対照群に比べて、ウイルス消失と症状改善までの期間を33%と20%短縮し、死亡率を31%改善した2)3)。この結果からも、呼吸困難をきたしてからの治療では、死亡を防ぐには手遅れである。
COVID-19で治療すべきは肺炎だけではない。ウイルス感染に伴う神経細胞障害は早期から、嗅覚や味覚異常等として徐々に進行する。また、血管内皮細胞の障害により、凝固異常も発症し、肺では間質性肺炎に加え、内皮細胞の障害・細小血管障害を伴う血栓症による酸素交換能低下(SpO2低下)、脳梗塞や肺梗塞、しもやけ様症状を起こす4)〜6)。
サイトメガロウイルス(CMV)肺炎は免疫応答による肺炎で、以前は治療に難渋したが、現在は早期の抗ウイルス薬投与でCMV増殖を抑え、CMV肺炎を予防している7)。COVID-19肺炎もウイルスに対する免疫応答による肺炎なので、早期に治療を開始してウイルス増殖を阻止し、COVID-19肺炎を予防することがCMV肺炎から学ぶべきことである。
新型コロナウイルスの増殖はインフルエンザと同じく1サイクル約6時間で次の細胞に感染し、24時間で4回感染が拡散する。感染拡大している変異株はヒトに順応し増殖能も感染能も高まった8)〜10)。2~3倍の増殖能を獲得したことで、武漢株に比べ1日で10倍以上(24)ウイルスができ、体内で広がることになる。したがって、武漢株より感染能も強く、ウイルスの体内での増殖・拡散が早く短時間で重症化し、武漢株に感染した基礎疾患患者より、変異株に感染した健常人の重症化リスクの方が高いと思われる。
ファビピラビルの早期投与による軽症化や死亡率の改善効果が報告されてきている。現在は、耐性変異を生じないファビピラビルが変異株にどれだけの効果があるかを検証できる機会である。ファビピラビルの治験は、既存の変異株あるいは新たな変異株に対応するためにも、インフルエンザのように神経細胞や血管内皮細胞等での増殖を最小限にできる発症48時間以内の成人を対象として、肺炎の重症化・死亡の予防と神経・血管内皮細胞障害による合併症またその後遺症予防を検証すると良いと思われる。
【文献】
1) 藤田医科大学ファビピラビル観察研究事務局:ファビピラビル観察研究中間報告. (第2報)(2020年6月26日現在)
2) Corritori S, et al:Multicenter, open-labeled efficacy study of AVIFAVIR in patients with COVID-19. In:Conference on Retroviruses and Opportunistic Infections. (Ed.^(Eds)(International Antiviral Society-USA, 2021)144.
3) Viriom Inc. Viriom and Chromis publish results of a multi-center open label post-marketing clinical study in 940 COVID-19 patients confirming efficacy of Avifavir at CROI2021. (Ed.^(Eds) (Cision PR Newswire, 2021)
4) Varga Z, et al:Lancet. 2020;395(10234):1417-8.
5) Ackermann M, et al:N Engl J Med. 2020;383(2):120-8.
6) Wiersinga WJ, et al:JAMA. 2020;324(8):782-93.
7) Razonable RR, et al:Clin Transplant. 2019;33(9):e13512.
8) Korber B, et al:Cell. 2020;182(4):812-27.
9) Zhao S, et al:J Travel Med. 2021;28(2).
10)Hou YJ, et al:Science. 2020;370(6523):1464-8.
白木公康(千里金蘭大学副学長、富山大学名誉教授(医学部))[新型コロナウイルス感染症]