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【識者の眼】「ピロリ菌除菌の有害事象について」浅香正博

No.5067 (2021年06月05日発行) P.65

浅香正博 (北海道医療大学学長)

登録日: 2021-05-24

最終更新日: 2021-05-24

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消化性潰瘍の治療におけるピロリ菌の除菌については、1994年に米国国立衛生研究所(NIH)のコンセンサスステートメントから大きく流れが変わってきた。世界中の研究者が集まって潰瘍治療に関して議論を重ね、その結論として“消化性潰瘍は初発であれ、再発であれ、その治療には酸分泌抑制薬に加え、抗生剤を併用すべきである”と示されたのである。消化性潰瘍の治療の大転換であり、画期的な宣言であった。この宣言が発表されてから、世界の潰瘍治療はピロリ菌の除菌療法が中心になっていく。

わが国でも大規模臨床試験が行われ、ピロリ菌の除菌療法が2000年に保険適用となった。この時、多くの医師が抗生剤の副作用と逆流性食道炎の急増を理由に除菌療法の保険適用に懸念を表した。私は米国並びに欧州の潰瘍に対するガイドライン作成に参画しており、抗生剤の副作用や逆流性食道炎の発生頻度は非投与の対照と有意差がないと結論づけられたことを学んでいた。日本ヘリコバクター学会のガイドラインの作成の際、除菌の副作用について膨大な内外の文献を整理したが、ペニシリンアレルギーを除けば服薬中止に至る有害事象はないと結論づけられた。その後、ピロリ菌除菌の保険適応拡大が続き、2013年の慢性胃炎への除菌適用後は、除菌数が急速に増えて6年間で約1000万人が除菌されたことになる。

2000年の除菌保険適用以降、膨大な数の除菌がなされ、その副作用については除菌薬に関係する製薬会社や厚生労働省に集計されているが、下痢、軟便、アレルギー(ペニシリンが圧倒的)が主なもので重篤なものはきわめて少ないことが明らかになっている。これは、除菌に使われている薬剤がそもそも副作用の少なく従来より使用されているものであり、それに加えて薬剤投与が1週間という短期間であることも影響していると思われる。除菌による逆流性食道炎は程度の軽いものが多く、治療の必要性は少ないので、最新の日本ヘリコバクター学会のガイドラインでも胃食道逆流症の存在は除菌治療の妨げにはならないと記載されている。除菌成功後は、胃酸の分泌が増えて空腹感が生じるので、食べ過ぎに注意することは必要である。

わが国のみならず世界各国のガイドラインにおいてもピロリ菌除菌の臨床的有用性は有害事象の問題を遙かに凌駕していると考えられている。ただ除菌療法は一例一例について副作用に注意して慎重に行う必要性があるのはいうまでもない。

浅香正博(北海道医療大学学長)[除菌療法]

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