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【識者の眼】「胎児超音波検査は、がん検診とは違うだろう」中井祐一郎

No.5067 (2021年06月05日発行) P.62

中井祐一郎 (川崎医科大学産婦人科学1特任准教授)

登録日: 2021-05-24

最終更新日: 2021-05-24

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胎児超音波検査は万能ではないが、重篤な奇形については妊娠20週ごろまでに判ることが多い。少々厳しいことだが、妊娠21週6日という期限を意識した診断と対応もやむを得ないだろう。生存不可能あるいは出生後の生活に大きな制約や限界がある場合、選択的人工妊娠中絶という道が存在するのは事実である。個々の女性がそれぞれ「育てられる児」を選ぶという視点からは、自己決定のために胎児情報を「知る権利」は認められてもよい。勿論、多彩な意見があることは承知しているが、その批判を受け止めた上での私の診療姿勢である。

一般に、胎児奇形は可能性としてまず認識され、胎児発育とともに可能性が否定されたり高められたりする。後者であれば、必要に応じて、出生後の治療が可能な施設へと繋いだり、福祉行政への連携を図ったりする…これが私たちの仕事である。

ところで、妊娠22週以降に見出される胎児奇形の可能性について、個々の女性に「知る権利」があったとしても、「知る義務」まであるのだろうか。

消化管や心の奇形など種々の形態異常が、妊娠中期以降に初めて疑われることも多い。これを可能性の段階であっても、直ちに告知しなければならないと考える医師も多いようだ。早期介入による予後改善がない限り、胎児が大きくなってからの再評価の結果を待って、私は告知すればよいと考えるのだが…。妊娠23週で可能性を告知したとしても、最終評価は妊娠9カ月頃になることは普通である。その間、妊娠女性に不安と焦燥だけを与えることが望ましいのだろうか? それは妊娠女性が持つ「知る権利」の行使であるとともに、「知る義務」なのだろうか?

がん検診では、「否定できない悪性可能性」に過ぎずとも、直ちに告知をして精査することに価値はあろう。しかし、早期介入に意味がない胎児異常であれば、より高度な診断が可能となる時期まで医療者が抱え込むことはパターナリズムとして否定されるべきだろうか?

中井祐一郎(川崎医科大学産婦人科学1特任准教授)[女性を診る]

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