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【識者の眼】「なぜ患者は“標準治療”を拒否し補完代替療法に傾倒するのか?」大野 智

No.5068 (2021年06月12日発行) P.66

大野 智 (島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)

登録日: 2021-05-28

最終更新日: 2021-05-28

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タイトルは煽り気味であるが、実際の医療現場に目を向けると、多くの患者が標準治療を受けながら補完代替療法を利用したり、あるいは興味関心を抱いたりしている実態が指摘されている。今回、補完代替療法と対比するように使われる「標準治療」の負の側面について考えてみたい。なお、筆者は標準治療を否定する立場ではないことを予めお伝えしておく。

まず1つ目は、標準治療の「標準」という言葉のイメージである。住宅や自動車などで使われる「標準仕様」「標準装備」等における『標準』は、必要最低限に備わったものというニュアンスで捉えられており、その上でオプションや最新装備が追加で用意されていることが一般的である。一方、補完代替療法には「最新技術」「最先端」などと目を引く言葉が惜しげもなく散りばめられている。そのため、標準治療が効果の視点から、松竹梅での「梅」、金銀銅での「銅」と最低ラインの位置づけと誤認されてしまっていることはないであろうか。「標準治療は現時点で科学的に効果が立証された最高(松・金)の治療である」と丁寧に説明することはもちろん重要であろう。あるいは「標準治療は副作用対策などのオプションがフル装備された最高グレードの治療法」など説明に工夫する余地もあるかもしれない。

2つ目は、標準治療と不可分の関係にある「医療の不確実性」の問題である。医学的に正確かつ誠実に説明しようとすればするほど、標準治療の効果について曖昧さがつきまとう。このことは、患者にとってみれば治療方針の意思決定に迷いが生じることに繋がり、世の中にあふれるまやかしの解決策、例えば医療の不確実性を無視した完全無欠を謳う補完代替療法に向かわせることになりかねない。インフォームドコンセントなどの場面においては、医療者の丁寧な説明に加えて適切な意思決定支援が行われることで、患者は理解・納得した上で迷うことなく「標準治療」を受け入れていくことができるようになると考える。

大野 智(島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)[統合医療・補完代替療法⑱]

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