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【識者の眼】「適応障害という病名をどう考えるか」上田 諭

No.5070 (2021年06月26日発行) P.58

上田 諭 (戸田中央総合病院メンタルヘルス科部長)

登録日: 2021-06-01

最終更新日: 2021-06-01

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女優の深田恭子さん(38歳)が、「適応障害」という精神科病名で休養して話題になっている。この病名について考えてみたい。

精神科の診断体系として現在用いられているDSM-5(米国精神医学会の診断基準)では、明らかなストレス要因によって3カ月以内に情動面、行動面の症状が現れるもの、とされている。深田さんは、3カ月以内になんらかのストレスを受けたことで、抑うつや不安やそれに伴う身体症状が出現し、仕事をするという行動に支障が生じたということであろう。ストレスに「適応」できずに障害が起きたということである。

ただ、ストレス要因がこの病気の診断に必須となったのは、狭義の適応障害による解釈であり、DSM基準の影響が大きい。ストレス要因に関係なく、うつ症状が強くなれば、うつ病という診断になることもある。昔からストレス要因によって生じる「反応性うつ病」という診断がある。適応障害はもともと(広義の解釈)、「新しい環境や課題に適応できずに種々の心身症状をきたすこと」であり、一過性の適応困難から慢性的な適応の悩みまでを含むものだった(南山堂医学大辞典、2006年)。

適応障害という病名がよく知られる出来事となったのは、皇室に入った皇后雅子さまについての病名の公表であろう。皇室という新しい環境、文化に入り、うまく適応できない状態になった。これは、まさに広義の適応障害である。皇室という特別な場ではなくても、一般の人々が進学したり、就職したり、転居したりして、たいていの人が適応している集団の環境・文化に馴染めず、困難を感じるのがもともとの適応障害なのである。

その意味から考えると、20年以上芸能界で活躍してきた深田さんが、仕事の環境に馴染めなくなったというのは考えにくい。プライベートで不快な出来事に遭遇したのかもしれない。それが適応障害に必須のストレス要因にあたり、診断に至ったのであろう。最近の精神科での適応障害の診断は、多くがこのような狭義の意味合いでなされており、深田さんの障害もまた、現代的意味での適応障害だといえそうである。

上田 諭(戸田中央総合病院メンタルヘルス科部長)[精神医療]

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