自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder:ASD)は発達障害(DSM-5では神経発達障害)のひとつと考えられており,男子に多く有病率は1~2%と考えられている。症状はコミュニケーションを含む対人関係の障害と,こだわり,感覚過敏(時には鈍麻)の症状がみられる。知的にも症状面でも多様性・連続性がみられる。
幼児期に疑われる場合には言語発達(自発語)の遅れが契機になることが多い。コミュニケーションは言語性と非言語性にわかれ,幼児期には非言語性の発達が重要であるが,その評価が難しいこともあって表出言語の遅れから疑われる。具体的には1歳6カ月児健診や3歳児健診での言葉のチェックから疑われることが多いが,後述の介入方法がわが国では知られていないこともあって,診断されずに経過観察をされていることも多い。この時期では,難聴の除外が必要であり,また様々な程度の知的障害を合併している場合もある。学童期以降に疑われる場合には,友人ができずに孤立する,話せるけれども会話がうまくできないといった症状からいじめや不登校が起こり,それをきっかけとして診断される場合もある。画像や血液検査,遺伝子検査などの有用性が低く,診断とその後の介入には専門性が必要となるため,数が多い病態であるにもかかわらず,適切な介入が得られていないことも多い。
非言語的なコミュニケーションの遅れについて,幼児期早期で対人関心の薄さ,アイコンタクトが少ない,模倣(動作や音)が少ないなどの症状があれば,それで診断するというより,どのように介入すればそれが変えられるのかを考える。米国保健福祉省(HHS)のまとめ1)でも,早期発見の難しさとともに早期介入の重要性が述べられている。指示理解の有無なども含めて行動を観察し,必要であれば発達検査なども行いながら,コミュニケーションの遅れがもたらす可能性のある将来的な困難を考慮して,具体的な介入方法を考え,保護者や療育機関と共有する2)。
学童期以降の場合には,(容易とは限らないが)本人との面接を保護者や関係者とわけて実施し,どのような生活上の困難を抱えているのかについて,まず「共通理解」をし,それに基づいてどのような介入を行うかを協議し,実行する3)。自殺企図など緊急性の高い場合には,精神科救急との連携が必要なこともある。
年齢を問わず,行動やコミュニケーション課題への介入方法の原則は同じである。望ましい行動を増やし,望ましくない行動を減らす,消去することであり,多くの介入方法があるが,国際的には応用行動分析(applied behavior analysis:ABA)が手法として多く用いられている(ABAにも複数のアプローチ法がある)。わが国ではTEACCH(Treatment and Education of Autistic and related Communication-handicapped Children)のほうが普及しているが,個別の対応を進めるというよりは小集団での対応や環境設定に用いられていることも多い。
いずれにしても社会生活上に困難さを抱えている,あるいは言語発達遅滞のように将来的に困難を抱えることが予測される場合,単に経過観察をすることは勧められない。
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