近年、幼児の高所からの転落事故が相次いで報告され、保護者の不在時に発生する事例も多い。2025年3月には福岡市で、父親の外出中に4歳児がホテル内の非常扉から転落し、死亡する事故が発生した。これに類似したケースで、保護者がゴミ出しのため短時間の外出中に子どもが転落死した事例も報告されている。いずれのケースも、子どもが目覚めた際に保護者が不在であったことによる不安や、探索行動が背景にあると推察される。子どもの転落事故は窓が開け放たれる春から夏にかけて増えることから、この時期の話題として取り上げておきたい。
厚生労働省の人口動態統計によれば、転落による小児死亡は1〜4歳、特に3〜4歳に多く、5歳以降で減少する。これは、年少児が好奇心旺盛で探索行動が活発であること、ならびに危険認知や自己抑制力が未熟であることが一因とされる。加えて、幼児は頭部が重く、転倒時に頭から落下しやすいため、重症化リスクが高い。実際、4歳以下は5歳以上に比し、頭部外傷リスクが3.2倍、入院や重症化リスクが1.6倍高いと報告されている1)。
行動発達の観点からは、3〜4歳は1時間に100回を超える質問をするなど、好奇心と探索意欲が最も活発な時期である。この時期には自己制御能力が未熟であり、保護者の指示による行動抑制が十分に機能しない。こうした特徴から、子どもが危険な場所へアクセスしやすくなることが転落事故の一因となっている。
転落事故のリスク因子として、保護者の不在も重要である。英国での後方視的研究によれば、窓から転落した小児25例中72%で目撃者がなく、成人が同席していたのはわずか8%であった2)。また、新型コロナウイルス流行下では保護者の在宅時間増加に伴い、転落事故が減少したと報告されており、保護者が近くにいることが事故予防に寄与することが示唆される。
しかし、育児において常時監視は現実的ではなく、物理的環境の整備が求められる。具体的には、窓の開口幅を10cm未満に制限する、バルコニー柵の高さを110cm以上とする、足場となる家具の配置を避ける、施錠の位置を床から1.4m以上とするなどが推奨される。加えて、AI技術を用いた遠隔見守りシステムの活用も今後の対策として期待される。
最後に、子どもの探索行動の特性をふまえると、我々は4歳以下の幼児を自宅やホテルで単独にさせないことの重要性を改めて強調すべきである。その上で、社会全体で育児環境の整備と支援体制の充実を検討する必要があると考えている。
【文献】
1)Harris VA, et al:Pediatrics. 2011;128(3):455-62.
2)Apostolopoulou K, et al:Childs Nerv Syst. 2023;39(11):3195-205.
坂本昌彦(佐久総合病院・佐久医療センター小児科医長)[小児科][転落事故][探索行動]