No.5075 (2021年07月31日発行) P.62
川﨑 翔 (よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)
登録日: 2021-07-02
最終更新日: 2021-07-02
新型コロナウイルスのワクチン接種が進み、ようやくコロナ禍も一定の収束が見えてきました(もちろん、職域接種の新規受付停止など課題も多い状況ですが)。
ワクチン接種が進む一方で「ワクハラ(ワクチンハラスメント)」という新しい言葉が生まれたのをご存じでしょうか。ワクチンの接種を行わない人に対する嫌がらせや不利益な取り扱いを指します。ワクチンによる副反応等を懸念する声もあり、大手企業の職域接種においては、ワクチン接種希望者が6割程度にとどまるという事例も生じているようで、ワクハラ問題が今後拡大する可能性があります。
医療機関としては、ワクチン接種を拒むスタッフに対してどのように接するべきかという点について、難しい問題があります。
ワクチン接種はあくまで本人の意思に基づいて行われるものです。厚生労働省のウェブサイトでも「新型コロナワクチンについては、国内外の数万人のデータから、発症予防効果などワクチン接種のメリットが、副反応などのデメリットよりも大きいことを確認して、皆さまに接種をお勧めしています。しかしながら、接種は強制ではなく、あくまでご本人の意思に基づき接種を受けていただくものです」「職場や周りの方などに接種を強制したり、接種を受けていない人に差別的な扱いをすることのないよう、皆さまにお願いしています」と記載されています。
したがって、スタッフに対して法的義務のないワクチン接種を強制することはできないと考えられます。ワクハラは労働問題に発展する危険性があり、慎重な対応が求められます。
私自身、アナフィラキシーショックで救急搬送された経験があり(幸い翌日朝に退院して、午後の裁判に行ける程度の症状でした)、副反応を心配する声もある程度理解できます。
しかし、医療機関においては特に、ワクチン接種が推奨されるべきでしょう。
そこで考えられるのが、ワクチン接種をしないスタッフに対して、定期的にPCR検査を実施する方法です。医療機関においては感染拡大防止の必要性が極めて高いです。当然ですが、PCR検査に副反応等の心配はありません。医療機関側の費用負担において、PCR検査を実施することは許容されると考えます。
ワクチンに関しては科学的根拠のない不安が世間一般に出回っているのも事実です。ワクチン接種率を向上させるため、医療機関としては、適切に情報発信をしていくということも重要であると思っています。
川﨑 翔(よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)[クリニック経営と法務]