No.5077 (2021年08月14日発行) P.65
藤原康弘 (独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長)
登録日: 2021-07-15
最終更新日: 2021-07-15
昔は、売薬、大衆薬などと呼ばれ、市中の薬局で直接購入できる薬は、今ではいわゆる「OTC医薬品」と呼ばれている。医薬分業が進む前の薬局で販売できた医薬品は、OTC医薬品が主体であった。オンライン診療も進む昨今のコロナ禍だが、ネット販売ができるかとか、対面での販売を原則とすべきとか、数年前にOTC医薬品で議論されていたことは記憶に新しい。現在は法改正され、OTC医薬品は薬剤師が対面で販売する「要指導医薬品」と「一般用医薬品」に区分されている。
一方、軽微で緩和な作用をもつ医薬部外品というカテゴリーがある。薬局・薬店などの販売業者でなくても販売できる歯磨、薬用化粧品や殺虫剤などが元々の製品レンジだが、OTC医薬品の一部をコンビニでも販売できるよう、規制緩和で再分類した「新指定医薬部外品」も登場した。栄養ドリンク剤や胃腸薬などである。店頭で消費者が直接購入できる医薬品等にはこれだけのバリエーションができている。これらの製品の審査や安全対策もPMDAの仕事である。要指導・一般用医薬品は概ね年600件、医薬部外品は年1800件承認されている。
ところで、医療用医薬品と同じ成分が含有されているスイッチOTC医薬品は、医師には気になる存在であろう。厚労省の検討会で、医療用医薬品としての使用経験から、一般用に転用することが適切とされたものがスイッチされる。承認から原則3年間は要指導医薬品として販売されるものの、医療のプロの管理下ではなく、消費者が直接自己選択することが前提の医薬品である。成分は医療用と同じでも、実は使い方などに違いがあることをご存じだろうか。
例えば、抗アレルギー薬の審査では、効能効果を「アレルギー性鼻炎」から「花粉などによる次のような鼻のアレルギー症状の緩和:くしゃみ、鼻みず、鼻づまり」に変える。医療用の治療に係る効能・効果は削除し、OTC用途の効能・効果を付与したり、安全性を考慮して、低用量に設定したりすることもある。間違えて使われない注意喚起のため、購入者や薬剤師用のチェックシートを作成・配布するものもある。
PMDAでは、審査を通じて安全かつ有用なOTC医薬品等を市場に提供し、かつ、消費者の正しい選択に資する情報提供に努めている。スイッチOTCといっても、医師の処方薬の代替ではなく、情報も含めて「別の医薬品」として、専門のチームが審査していることも知っておいてもらいたい。
藤原康弘(独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長)[薬事]