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【識者の眼】「東アジア伝統医学の国際化と標準化(2)─WHOの国際疾病分類(ICD)」並木隆雄

No.5077 (2021年08月14日発行) P.66

並木隆雄 (千葉大学医学部附属病院和漢診療科科長・診療教授)

登録日: 2021-07-19

最終更新日: 2021-07-19

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国際疾病分類(ICD)とは世界保健機関(WHO)が世界保健機関憲章に基づき、1900年から作成している疾病、傷害及び死因の統計分類である。この目的は、異なる国や地域から集計されたデータの体系的な記録、分析、解釈及び比較を行うためである。現在日本では第10版(ICD-10)が使われているが、2019年に改訂され2022年1月に発効する予定の第11版には、国別の選択ではあるが、伝統医学の章が導入された。発効後は、西洋医学病名に加えて、漢方の病状(証)を併記できることとなる。

この章の内容は、伝統医学的疾病と伝統医学的病状診断である証の2つに分かれる。漢方医学では主に後者を用いる。前者の伝統医学的疾病は西洋医学の病名に近い疾病単位で、中国・韓国が使用する150の下位分類名である。一方、西洋医学のもとで一本化された医療制度が確立している日本では、現代医学病名の記載に、選択的に「証」を付けることができる方法となる。つまり、寒熱・虚実・表裏、気血水、六経、腎(気)虚の漢方22項目と鍼灸20項目の合計42項目で分類を組み合わせる(例:関節リウマチ、陽虚証、表証、気虚、水滞、腎虚)。

さて、伝統医学側からすると、世界で用いる分類に、東アジアの伝統医学が取り入れられることは大変喜ばしいことである(ただし、WHOが伝統医学を科学的に認めたという意味ではない)。メリットとしては、今後、国際的に認められた証の分類方法が普及すると、例えば、各担当医師によるコーディングの傾向を解析し、施設内・施設間での標準化、初診時処方や西洋医学病名との関連解析などができる可能性があるなど、今まで取りにくかった統計が国際間で可能になるかもしれない。つまり、各国の伝統医学の治療の実態やその効果比較ができるようになる。さらにそのような臨床データを集積・解析することで、漢方エキス製剤のエビデンスを形成しうると考えられる。しかし、問題もある。同じ古代中国医学がルーツである東アジアの伝統医学でも、中国・韓国は西洋医学からは独立した疾病分類の運用であるのに対し、日本のそれは西洋病名も取り込んだ伝統医学の運用であるため、それぞれ異なった伝統医学に変化してきたといえる。そのため単純に比較できない場合もある。つまり、日本とは医療体系が異なる中国・韓国の医学と、どう調和していくかを考える必要がある。

次回は、強制力のある伝統医学の国際的標準化であるISO(世界標準化機構)の現状を紹介する。

並木隆雄(千葉大学医学部附属病院和漢診療科科長・診療教授)[漢方]

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