No.5080 (2021年09月04日発行) P.54
和田耕治 (国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)
登録日: 2021-08-24
最終更新日: 2021-08-24
人と人とが会うという接触機会を減らせば、新型コロナの感染者数が減少に転じるのは明らかである。誰もが1年半の経験を通じて「これぐらいなら大丈夫」だと思って生活するようになっているが、デルタ株の広がりやすさや脅威がどこまで理解されているだろうか。ワクチン接種の推進、五輪の開催、長期の緊急事態宣言などがあり、結局個人として“どういう感染対策をしたらいいのか”ということが伝わっていないことは課題である。
これまでは市民への感染対策の要請として、夜間の外出や、人が集まる場所、会食を避けるように促してきた。これは感染拡大のハイリスク場面の「引き算」である。しかし、日常の多様な場面で感染が広がっている現在は、引き算だけではカバーできない感染場面もある。
筆者は、これからは最低限できることを「足し算」として示し、その他は止めてください、という呼びかけが必要だと考えている。
オーストラリアのシドニーでの例を示す。ここでは、「次の目的のみ外出を認める」として、食品等必要不可欠な買い物、医療・介護ケア(新型コロナウイルスワクチン接種を含む)、屋外での運動(移動範囲は5km圏内に制限)、必要不可欠な通勤・通学を挙げている。事務用品、建設・修理用品、造園用品、農機具、ペット用品等の小売店舗はオンラインによる買い物での受け取りのみを認めている。
また、できないこととして、夜間外出禁止(午後9時から午前5時まで)を挙げ、ただし、許可された労働者や救急・医療関係者は除くとしている。
この事例を日本の対策へどう生かすか。漫然と「不要不急」と言っても既に市民には伝わっていないのは明らかである。また、ここまで感染者が増えると、例えば東京都で1日当たり2500人や1000人まで減らすとなると月単位の時間が必要である。医療も疲弊しており、感染者増加による影響は今後さらに深刻化する。
市民への感染対策の要請について都道府県知事は、特措法に基づいた基本的対処方針を踏まえるのは当然として、一方で、その方法を工夫できることになっている。例えば、来週の1週間、または土日だけでもシドニーの事例を参考にして市民への呼びかけの方法を変えてみてはどうであろうか。
既に感染拡大の長期化が見えており、知事などから市民に伝える感染対策は、市民に寄り添ったストーリーや伝え方が何よりも重要になってきている。
和田耕治(国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)[新型コロナウイルス感染症]