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【識者の眼】「『学校精神保健』の充実を」本田秀夫

No.5082 (2021年09月18日発行) P.58

本田秀夫 (信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授)

登録日: 2021-08-31

最終更新日: 2021-08-31

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新型コロナウイルス感染症の流行第5波では感染力の強いデルタ株が主流となっており、これまでより子どもの感染者の増加率が高くなっている。感染者が認められて休校・休園の措置を講じる学校・保育園・幼稚園もみられる。集団活動を基本とする学校や園が、子どもたちにとって安心・安全に過ごせる保障をできない状況になっている。

このような状況は、子どもたちの心の健康に強く影響を及ぼす。昨年来、新型コロナウイルスによる生活環境の変化によって抑うつ、不安、情緒・行動の問題を示す小・中学生が増加しているとの報告が世界各国から出されている。不安を背景とした登校しぶりや不登校、保護者の在宅勤務増加に伴って家族が終日家にいることによるストレスや喧嘩の増加、さらには虐待の増加も懸念されている。

こうした子どもたちの心の健康の変化は、学校における行動の変化として表れやすい。したがって、子どもの心の健康の問題を把握し、必要に応じて精神科医療や児童相談所などにつなげるための「学校精神保健」の充実が求められるところである。

新型コロナウイルス感染症の流行拡大以前から、学校保健の領域では心の健康への対応が必要であることが指摘されてきた。2018年に日本医師会学校保健委員会から出された答申「学校医活動のあり方」でも、学校医と児童青年精神科医療との連携ニーズが高まっていることが述べられている。しかし、現実には児童青年精神科を専門とする医師が少なくかつ地域偏在があるため、なかなか体制整備が進まない。

学齢期の支援ニーズとして最も多くの割合を占める知的障害および発達障害は、両者を合わせると子ども全体の1割を占めると考えられている。加えて虐待、いじめ、不登校、自殺など、子どもの心の健康に関連する課題は増加している。学校は、心の健康への配慮が必要な子どもがこれだけいることを、もはや見過ごすわけにいかない。児童青年精神科医療の立場からみると、子どもの心の変調のサインに気づき、医療につなぐ役割を学校に期待したいところである。

現在、養護教諭に加えて非常勤のスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーが配置されるなどの対策がとられているが、まだ十分ではない。さらに突っ込んで精神科医療との連携体制をどのように作るかを、国レベルで議論する必要がある。

本田秀夫(信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授)[子どもの精神科医療][新型コロナウイルス感染症]

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