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【識者の眼】「特定妊婦に気付き繋げる」小橋孝介

No.5081 (2021年09月11日発行) P.58

小橋孝介 (松戸市立総合医療センター小児科副部長)

登録日: 2021-09-01

最終更新日: 2021-09-01

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厚生労働省の「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第17次報告)」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190801_00002.html)が公表された。今回の報告では、2019年4月から2020年3月までの事例を検証している。子ども虐待による死亡は心中(子どもを殺して親も死亡)と心中以外(事件報道されるようないわゆる虐待死)に分けられる。今回心中以外の虐待死は57人と前回から微増で、ここ数年は徐々に増加傾向にある。今回の検証対象は新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言前までの死亡であり、次回以降の推移が気になるところである。

この報告では、毎回特定のテーマについて「特集」として過去の報告データの深掘り検証を行っている。今回はネグレクト事例について第5次〜第16次報告までの心中以外の死亡641人のうち、死因がネグレクトである200人を対象に検証している。そこから、ネグレクト事例では、子どもの状況としては「特になし」の事例が多く、ネグレクトによる死亡は主に母側の要因によって発生していることが明らかになった。特に養育能力の低さや育児不安がある場合、10代での妊娠・出産やひとり親家庭という成育歴がある場合、妊婦健診未受診の場合の割合が高かった。

2008年の児童福祉法改正によって、「出生後の養育について出生前において支援を行うことが特に必要と認められる妊婦」が特定妊婦と定義された。子育て世代包括支援センター等では特定妊婦として把握された妊婦に対して、妊娠期から支援を行っている。しかしながら、いかに特定妊婦を把握するかが課題である。特にネグレクトに至る事例では母自身が困っておらず支援につながらないような場合も少なくない。その様な事例に周産期に関わる医療機関が気付き、「子どもを主語」に考えて支援を行う事が必要と判断したのであれば、たとえ同意が得られなかったとしても市町村へ情報提供を行わなければならない。これは児童福祉法に規定される、医療機関に課せられた努力義務であり、2018年には厚生労働省から通知(https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000336009.pdf)も出されている。

医療機関は特定妊婦に対する支援の入り口として非常に重要な役割を担っている。安心・安全な成育環境を家族と一緒に整えていくためには、我々が気付き繋げる力を養っていく必要がある。

小橋孝介(松戸市立総合医療センター小児科副部長)[子ども虐待][子ども家庭福祉][特定妊婦]

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