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【識者の眼】「非感染性・慢性疾患の疫学者が語る『ようやく見えた第5波の収束』」鈴木貞夫

No.5082 (2021年09月18日発行) P.56

鈴木貞夫 (名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)

登録日: 2021-09-03

最終更新日: 2021-09-03

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日本の新型コロナウイルス感染症第5波の新規感染者数は、これまでの波と比べ物にならないほど高かった1)。第3、4波の人口100万人あたりの新規感染者数(1週間移動平均)が50程度だったのに対し、第5波は180を超えた。患者数は簡単に倍になるのに、病床は段階式にしか増やせない。どうしても、医療逼迫は起こるし、国民の不安や不満は高まる一方だ。

一方、死亡に注目すると、第4波の最高値が0.90(人口100万対)まで上昇したのに対し、まだ上昇中とはいえ、現時点では0.33に過ぎない。新規感染は第4波の3倍以上で、医療逼迫状態でも死亡数は半分を大きく割り込んでいる。これはワクチンの効果と考えられる。感染が3倍あれば、死亡も相応に増えて当然なので、高齢者のワクチン接種が、ギリギリのタイミングで間に合ったのは、本当に幸いであった(そのファインプレーの割に内閣支持率は低い)。

アジアで8月に接種が進んだ国は、カンボジア、日本、マレーシアが3トップで、ほぼ100人あたりの平均接種回数100で並んでいる1)。これは、国民全員に2回接種をゴールとしたときのちょうど折り返しにあたる。しかし、この3国で状況は全く異なっている。カンボジアは、人口100万人あたりの新規感染を30程度に抑え、よくコントロールできている。マレーシアは、半分ワクチンが終わっているのに、新規感染は650を超えて感染爆発が止まらない。死亡も7〜8あたりで高止まりしている。マレーシアのようにワクチンの伸びと感染の動向が一致しない国では、往々にして、中国製ワクチンが使用されている。

第5波が思いのほか高かったのは、国民的なハイリスク行動の増加と、デルタ株の感染性によるところが大きいだろう。ワクチンの接種者割合の驚異的な伸びの裏で、新規感染者数も増えたのは、ワクチンを接種していない年代での爆発的な感染の広がりだ。8月に入ってから、50代の死亡数が60代より多い週が増えてきている2)が、これはかつてなかったことである。今さら言うまでもないが、若い年代へのワクチン接種は急務である。

ワクチンなしで予防活動が緩めば、感染が増えるのは当然で、実際にそれが起き、わが身にかえってきた。起きてから医療の不備を嘆くのではなく、医療が逼迫しないように、予防活動を続けることが重要だ。8月30日には全国の実効再生産数が1を切り、1を超える府県は17にまで減少した3)。ようやく先は見えてきたが、油断は禁物だ。

【文献】

1)Our World in Data:country profiles

   [https://ourworldindata.org/coronavirus#coronavirus-country-profiles] 

2)国立社会保障・人口問題研究所:感染者・死亡者数の推移

   [http://www.ipss.go.jp/projects/j/Choju/covid19/index.asp] 

3)NHK特設サイト:新型コロナウイルス

   [https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/data/#latest-weeks-card] 

鈴木貞夫(名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)[新型コロナウイルス感染症]

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