No.5082 (2021年09月18日発行) P.62
西 智弘 (川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科)
登録日: 2021-09-06
最終更新日: 2021-09-06
システムズ・アプローチ、という考え方を聞いたことがあるだろうか。
家族療法に用いられる考え方のひとつで、家族をひとつのシステムとしてとらえ、構成する個人がお互いに関係性を持ちながら状況を作り出していると考えるものだ。
これだけだとわかりにくいので、例を挙げてみよう。がんが進行して、全身が衰弱し、余命いくばくもない患者がいたとする。本人は自分の運命を悟り「最期は家で迎えたいな」と医療者につぶやく。しかし、患者の妻は「そんな状態で家に帰ってこられても困る」と拒否。医療者は何とか本人の思いを叶えたいと、妻を説得しようと試みるが、ついには妻が着信拒否をするようになってしまった…。
このエピソードだけを聞けば、「妻は何てひどい人だ」と考え、妻を責めてしまいがちだが、それは「妻が悪→本人が苦しむ」という直線的な因果関係しかないという思いこみからくる。結果的に、医療者が妻(という諸悪の根源)を説得(除去)しようと試みるから、妻が医療者から離れていき、本人の残された時間がどんどん短くなるという悪循環にはまる。ここでは、本人、妻、そして医療者も含めた関係性の悪循環を断つことを最優先に考えるべきで、そのためには「本人が帰宅することに対し妻は何を懸念しているのか」「これまで妻は夫が自宅で過ごすためにどんなことをしてきたのか、その過程から現状をどうみているのか」などを聞いていく必要がある。そのうえで、妻がこれまで行ってきたことを医療者がねぎらい、「本人がどんな未来を過ごすのがベストなのか」を一緒に考えてくれる仲間になってもらうことが大事なのである。
医療者はとかく「明確な問題には明確な原因」があると考えがちだが、「医療者自身も含めた」人間同士の相互関係の循環にこそ問題の本質があることもある、という視点を持つべきなのである。
西 智弘(川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科)[システムズ・アプローチ]