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【識者の眼】「蝙蝠はなぜ嫌われるのか」早川 智

No.5088 (2021年10月30日発行) P.60

早川 智 (日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授)

登録日: 2021-09-29

最終更新日: 2021-09-29

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秋も深まってくると、花屋さんの店先にはオレンジ色の南瓜が並ぶ。南瓜と黒猫と共にハロウィーンの定番はコウモリである。夜、音もなく敏捷に飛翔し、昼間は洞窟や屋根裏で逆様になって休むなどあまり良いイメージはない。ただ、中国では縁起もので、その根拠は漢字「蝙蝠」の「蝠」の字が「福」に通じるためだそうである。昔太宰治が愛した両切り煙草「ゴールデンバット」は中国に輸出され大人気だったという。実際、食材にもなっている。

ところが困ったことに中国以外にも世界中の多くの国でコウモリを自然宿主とするウイルス感染がヒトにも広がる事例がある。有名なエボラ出血熱やハンタウイルス感染症、ヒストプラズマ感染症そして狂犬病を含むリッサウイルス感染症など枚挙にいとまがない。なぜコウモリは人にウイルスを感染させるのか。哺乳類の中で唯一長距離の飛翔を行うコウモリは酸化ストレスにより細胞内に多くの核酸断片を生じる。断片化した核酸は通常では細胞内の分子センサーに認識され、細胞にウイルス抵抗性を与えたり、他の免疫細胞を活性化するインターフェロンが誘導される。しかし、コウモリはこのようなインターフェロン応答を欠き、その結果多くのウイルスに持続感染しているという1)2)。彼ら自身は未知のメカニズムでこれらのウイルスに抵抗性であるが、他の動物に媒介して疾病を引き起こすため人獣共通感染症の原因となっている。空を自由に飛べるコウモリはその数が多く、世界では1000種に達する。多くは夜行性のため目が退化し、自ら発射する超音波の反射により餌や障害物など外界を探知する。

コロナウイルスの多くがコウモリを宿主としているため、過去にも今回のようなパンデミックがたびたび生じ、そのたびに人類やその祖先は治療薬がなくても獲得免疫の力でこれを撃退してきたのであろう。実際、SARSは今では跡形もないし、今回のCOVID-19も数年のうちに消えてゆくであろう(と信じたい)。その結果、残ったのが普通感冒の原因となる4種類のコロナウイルスである。もう一つ、最近気になった論文は喫煙がCOVID-19の悪化因子という論文である。従ってどなたも流行中は禁煙減煙するにこしたことはない。ここまで書いて、書斎に頂き物のコイーバ・コロナという最上級のハバナ葉巻がある事を思い出した。ただ、とても吸う気にはなれない。安価なバットも高価なコロナも今は間が悪い。

【文献】

1)Xie J, Li Y, Shen X, Goh G, Zhu Y, Cui J, Wang LF, Shi ZL, Zhou P. Dampened STING-Dependent Interferon Activation in Bats.Cell Host Microbe. 2018 Mar 14;23(3):297-301.e4. doi:10.1016/j.chom.2018.01.006

2)Clayton E, Munir M.Fundamental Characteristics of Bat Interferon Systems. Front Cell Infect Microbiol. 2020 Dec 11;10:527921

早川 智(日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授)[人獣共通感染症]

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