No.5089 (2021年11月06日発行) P.54
竹村洋典 (東京医科歯科大学教授)
登録日: 2021-10-06
最終更新日: 2021-10-06
筆者が若い頃に自分の専門として総合診療を選んだのは、決して日本の医療行政や医療経済にとって良いためではない。総合診療医が地域のどんな人をも幸福にできる可能性がある医師であると思ったからである。やや夢見がちに……。実際、竹村が若い頃は、厚生労働省など行政は一時、総合診療医育成を強力に推し進めた後でその熱が下火になり、また医師会などの団体もどちらかというと総合診療にやや陰性な感情を持っていた可能性もあった。そんな環境のもとで総合診療医を目指していた若者は、ちょっと変わった人と思われていたかもしれない。筆者もややぎこちない正義感で、総合診療医を希求した。
しかし今では、日本の行政は総合診療に後ろから追い風を吹かせている。平成28年度改訂版医学教育モデルコアカリキュラムでは、日本の医学部・医科大学の臨床実習で「総合診療科」での実習が「必須」になっている。また医学部・医科大は7年に1回、国際レベルの医学教育に合致しているか医学教育分野別評価基準で認定されるが、平成29年度版の認証基準では「総合診療科」が「重要な診療科」となっている。それゆえに現在、日本の多くの医学部・医科大に総合診療科が設立されている。さらに日本専門医機構が設立され、総合診療専門医が19の基本領域専門医の1つとなった。その日本専門医機構で総合診療医やその研修プログラムを認証する総合診療専門医検討委員会は、行政や日本医師会と強い連携をとりながら活動している。そして日本専門医機構は、育成する総合診療医の数が現在の何倍にもなることを願っていると思われる。
高齢者が増加し、「治す医療」よりも「癒すケア」が重視されるようになってきた。それゆえに在宅医療が重視されている。例えば地域医療構想では、回復期病床の増加が望まれている。また地域包括ケアシステムでは在宅医の増加、多職種連携のできる医師が必要となっている。そしてそのプレーヤーに必要とされる資質を総合診療医はほぼ満たしている。しかも、日本の医療需要のピークが過ぎてしまった後でも、また、新型コロナのような医療問題が突然襲ってきても、ニーズに応じて、臨機応変、その提供する医療を変容させることができるのも総合診療医かもしれない。将来の日本の医療に総合診療医のニーズはさらに大きくなるであろう。
かつての患者中心の医療を実行する理想の医師、夢の医師であった総合診療医が、今、現実に社会から求められている。それゆえに、竹村にとって「総合診療医」はキラキラと光る魅力的な医師である。
竹村洋典(東京医科歯科大学教授)[総合診療]