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【識者の眼】「東アジア伝統医学の国際化と標準化(4)─知的財産と経済的視点から」並木隆雄

No.5087 (2021年10月23日発行) P.65

並木隆雄 (千葉大学医学部附属病院和漢診療科科長・診療教授)

登録日: 2021-10-07

最終更新日: 2021-10-07

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今回は、「東アジア伝統医学の国際化と標準化」のまとめとして、医学・医療に関連した国際的な機関や条約なども絡めた関係を見てみたい。(1)(7月31日号)で、説明したように、東アジア伝統医学の標準化に積極的な中国の世界戦略としては、2010年前後から伝統医学の学会であるWFCMS、WFASなどの学術機関からのアプローチだけでなく、(2)(3)(8月14日号、9月11日号)で説明したWHOやISO(世界標準化機構)などの国際機関を有機的に活用して行動している。この中で特にISOは、作成された国際標準が各国の法制度より強制力があるため、特に重要視していると思われる。このような中国の積極的な態度に対し、日本の状況は、東アジア伝統医学の国際化という黒船が来たという状況である。今回の東京オリンピックのテーマでもないが、日本国内の漢方医学はよい意味での多様性との共存状態である。少し専門的になるが、漢方医学といっても、処方の考えの中心は、古方派(日本の大学での教育の主流派)、後世方派、中医学派などに分かれている。かくいう筆者は古方派であるが、その他の流派の利点を取り入れている。他国は、自国内で統一された伝統医学なので国際化の調整は甚だ難しく、個々の案件で対応していく必要がある。

さらに、事態を複雑にしているのは、知的財産に関わるUNESCOや生物の多様性に関する条約などの国際的な制度も関係していることだ。つまり、これらの制度や前述のISOも、知的財産の保護という点より経済的な観点がより重要視されている。

一方、時を同じくして、世界113カ国の医師会が加盟する非政府組織である世界医師会(WMA)の2015年(第200回)オスロ会議において、経済的な事情が自由な医学の発展や利用に影響を及ぼす危機感から、「貿易協定と国民の健康に関するWMA理事会決議」として、「医療サービスや医薬品の利用を損なうと考えられるいかなる貿易協定条項にも反対する(日本医師会訳)」1)が勧告された。この宣言からも、経済と医療のバランスは、伝統医学だけの問題としてだけでなく、全人類の福祉の観点からも、医学界全体の問題として、今後も捉えられていくべきものであろう。

伝統医学と知的財産に関する公開シンポジウムを当方の関係する組織で行います。興味のある方はぜひご参加ください。

〈公開シンポジウム〉(無料)
日本の伝統医療を医療・文化・知的資源として捉えるために─第15回生物多様性条約(CBD)締約国会議(COP15)を踏まえて─
開催日時:2021年10月31日(日)13:00〜17:00(Web開催のみ)
定員:80名
参加申込書(https://forms.gle/TcHzL3dXbbgMFijT8)から必要事項を記入くださ


【文献】

1)世界医師会(WMA):オスロ理事会出席(報告)について.

   [https://nk.jiho.jp/sites/default/files/nk/document/import/201504/1226580955610.pdf

並木隆雄(千葉大学医学部附属病院和漢診療科科長・診療教授)[漢方]

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