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【識者の眼】「『HPVワクチン』問題解決には、医学が示す数字以外にも眼を向けなければならない」中井祐一郎

No.5094 (2021年12月11日発行) P.62

中井祐一郎 (川崎医科大学産婦人科学1特任准教授)

比名朋子 (神戸市看護大学健康生活看護学領域ウイメンズヘルス看護学)

登録日: 2021-12-06

最終更新日: 2021-12-06

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予防接種法に規定される疾病には、A類とB類の区分がある。厚生労働省が監修する逐条解説には、A類疾病に係る予防接種とは主に集団防御を目的として行われるものと記載されているが、果たして「HPVワクチン」の定期接種にこの視点があるのだろうか? 問題の根底には、個人防御に過ぎない本ワクチンの接種プログラムにもかかわらず、HPV感染症を無理やりA類疾病に入れたというスタート時の誤謬があるように思う。勿論、集団防御を装うことで、公費助成を容易にするという政策技術上の視点があったのかもしれないが、HPV感染症は風疹や麻疹、百日咳などの旧来の指定疾病とは異なって、日常生活における活動過程で感染することはない。勿論、HPVに感染する性行為も日常生活活動と言えばそれまでだが、そこには個々人の性に関する自己決定意志が関与する。この関与の度合いは、風疹などの感染におけるよりも明らかに高い。

パートナーが少なければ罹患率が低下することは、良く知られた事実である。だからといって、女性は生涯一パートナーとのみ性を楽しむべきだとは主張しない。「性の倫理学」の著者田村公江は、女性が性を楽しむためには男性の努力を要することを指摘している。女性が性に関する自己能力を満喫するためには、努力ができるパートナーの選択が重要ということになる。そのためには多くのパートナーとの経験が必要かもしれないが、このような道を歩むためには本ワクチンは有用であろう。しかし、生涯一パートナーで良いと考えるのならば、本ワクチンの有用性は著しく低下する。換言すれば、本ワクチンの個々人に対する有用度は、それぞれのセクシャリティに関する自己決定によって大きく変化するということだ。

ゼロリスクを求めて、初交前接種にこだわる必要があるのだろうか? セクシャリティに関する自己決定ができる年齢まで待った上での接種をも可とする政策思想が必要ではないだろうか?

中井祐一郎(川崎医科大学産婦人科学1特任准教授)
比名朋子(神戸市看護大学健康生活看護学領域ウイメンズヘルス看護学)[HPVワクチン]

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