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【識者の眼】「統合失調症やてんかんの薬剤不足について」平川淳一

No.5098 (2022年01月08日発行) P.58

平川淳一 (平川病院院長、東京精神科病院協会会長)

登録日: 2021-12-10

最終更新日: 2021-12-10

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統合失調症は再燃の多い疾患である。その理由として退薬が問題とされている。服薬アドヒアランスを改善しようと、剤形を工夫し、液剤にしたり、ゼリー状にしたり、貼付剤までつくり、患者に選ばれ、好んで飲まれる工夫をしているのが現状である。また、精神障害は疾患そのものの症状とそれがもたらす環境に影響される二次障害が絡むため、処方は主治医の細かな配慮が窺われ、処方を見るだけでどんな症状があるのか推察できる場合もあるくらいである。まったく治療法がなく、自宅に監禁したり、ロボトミーやインスリンショック療法など、脳の破壊だけが治療であった過去から、ここ50年間で、薬物療法は飛躍的に改善した。我々、精神科医にとっては頼みの綱である。

しかし、後発薬品会社大手の日医工の事件が起きたことから、連鎖的に他社の後発品製造ラインに大打撃が起こった。厚労省は医療費削減のため後発品の使用を強要してきたが、ここに供給不足が起き、出荷調整という事態となっている。医薬品の出荷調整品目は沢井製薬だけでも200品目以上、共和薬品も170品目くらい、これらを合計すると膨大な数になると各社がホームページ上でも公開している。

薬剤不足は精神科においては、前述したように大きな問題であり、投薬ができなければ、患者の病状悪化はすぐ起きる。統合失調症患者は生活変化に弱く、簡単には薬も変えられない。また、抗てんかん薬などは、徐放剤にして血中濃度を維持するなど気を遣う。それが、徐放剤が手に入らないので、通常のもので良いか、と調剤薬局から電話が入る。駄目だとは言えないので、承知するが、駄目だと言いたい。腹を立てて薬品卸に問い合わせても、まったく先が見えないと、取り付く島もない。厚労省の担当は、医政局経済課であり、担当者に電話してみるが、いつも会議に出ていて連絡も取れない状態である。

薬価は診療報酬改定の度に財源として重宝されてきたが、限界にまで達している感がある。ファイザー社がコロナワクチン供給のときに、あまりに買いたたいてきた日本に意地悪をしたという噂さえある。1円、2円というただ同然の薬をつくらせ、一方で数千万円の新薬を導入するなど、私の感覚では理解できない保険制度である。特殊な医療は別枠にし、一般的な部分を保険で賄うとか、医薬分業も調剤薬局ばかり景気が良いのはおかしいので見直すとか、少しは考えてほしいものである。

平川淳一(平川病院院長、東京精神科病院協会会長)[後発医薬品][抗精神病薬]

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