No.5100 (2022年01月22日発行) P.57
神野正博 (社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院理事長)
登録日: 2021-12-28
最終更新日: 2021-12-28
2024年から始まる医師の働き方改革。「医師は自分の仕事の中身をコントロールできる」「そんなことは無理」「地域医療が崩壊する」などといった批判やため息をよそに粛々と制度は進行する。2022年は、時短計画の策定、追加的健康確保措置、宿日直許可の取得など病院にとってのんびりできない年になりそうだ。
教養豊かな読者諸氏は、当然「労る」「労う」は読めるはずだ。小学校の漢字ドリルにも載っているそうだ。
「労る」は「いたわる」であり、辞書によれば例文として
─ 母親の体を労って毎日を過ごそう
─ 自分の体を労る
─ 私は愛車をいつも洗車して労っている
などが挙げられ、「労う」は「ねぎらう」であり、
─ 日々頑張ってくれている社員を労った
─ いつも苦労して働いてくれている母を労う
─ 大会で優勝した後輩の労を労う
となる。つらい、できればやりたくない使役Laborを「労働」と訳した先達は、「いたわり、ねぎらいながら働く」という意味を込めたに違いない。
ある雑誌に、ジャーナリストの井上和彦氏は、“本来、日本には欧米的な意味合いの「労働」という言葉はなかった。「働いてやっている」という考え方ではなく、「働かせていただいている」というのが、日本人が本来持つ価値観”であると述べる。「働かせていただく」と「いたわり、ねぎらう」というバランスがあってこその「労働」だと納得する。
どうも2019年からの労働基準法改正、そしてこの2024年からの医師の働き方改革は、「使役」をいかに回避するかに重点が置かれているように思えてならない。「労働」には、単に生活のためではない「やり甲斐」「生き甲斐」の意味が含まれているのではないか。医師の医療に対する責任感や思いも「甲斐」につながる。今更、それを法律で規定することに違和感を覚えるのは私だけだろうか。
神野正博(社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院理事長)[医師の働き方改革]