No.5101 (2022年01月29日発行) P.60
宮坂信之 (東京医科歯科大学名誉教授)
登録日: 2022-01-13
最終更新日: 2022-01-13
医薬品(薬)は逆から読めばリスクである。本来、薬はその薬理作用を期待して処方する。しかし、薬用量と中毒量が近ければ、様々な副作用を起こしうる。両者はコインのように表裏一体であり、当たり前ではある。
関節リウマチ(RA)の中心的な治療薬としてメトトレキサート(MTX)がある。MTXは葉酸拮抗作用を介してDNA合成を抑制する。今ではRA治療のパラダイムシフトを可能にする生物学的製剤があるが、それでもMTXはできる限り第一選択薬剤として使用する。
RAの治療には、基本的にはMTXは週1日投与とし、葉酸を24〜48時間後に投与する。このため添付文書には、RAの治療の場合は週1日投与と明記されている。
MTXの添付文書には、警告として「腎機能が低下している場合は副作用が強く現れることがあるため、投与開始前及び投与中は腎機能検査等、患者の状態を十分観察」する必要がある旨が書かれている。この腎機能低下とは、どの程度を指しているのであろうか?
残念ながら、医師に聞いても知らない人が決して少なくない。eGFRで言うと、eGFR<60mL/分/1.73m2が腎機能低下を指し、eGFR<30mL/分/1.73m2は禁忌である。腎機能低下の場合には、MTXの処方量を減ずる必要があるし、葉酸の併用は必須である。高度な腎機能低下の場合には、MTXは使用禁忌あるいは中止である。
医師のうち、添付文書まで熟読している人が何人いるであろうか? 私は立場上、このような事態によく遭遇する。もしも添付文書通りにMTXの適応、用量・用法を守っており、副作用が入院治療に匹敵すれば、医薬品健康被害救済制度の対象となりうる。しかし、添付文書を守らない場合には、健康被害救済制度の対象とならないばかりでなく、医事係争の対象ともなりうる。医師にとって、両者は雲泥の差である。
添付文書をよく読まずに汗水垂らして現場で走り回っている医師は、薬はリスク? と一度、疑ってみるべきである。無知はリスクとなりうるのである。
宮坂信之(東京医科歯科大学名誉教授)[医薬品][添付文書]