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【識者の眼】「コロナで考えたこと(その5)―特定科の医師不足問題」邉見公雄

No.5103 (2022年02月12日発行) P.62

邉見公雄 (全国公私病院連盟会長)

登録日: 2022-01-25

最終更新日: 2022-02-04

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コロナでわかったことのひとつに医師が足りない、特にICUや救急、複数の疾患を診る総合診療医などの不足が明白になった。ICUはあってもその半分の病床に専任医師がいないとの報告もある。“地域医療構想”という言葉に引き込まれ池上彰氏の番組を見た。同氏のコメントを要約すると「国は今、過疎で人口が減り、患者が減っている400余りの病院を統廃合、ダウンサイジングして医療費を減らそうとしている。これが上手く進んでいたら今回のコロナでその地域は大変なことになっていたであろう」。地域医療構想で名指しされた436病院の約半数がコロナ対応で存在感を示し、常時と非常時や緊急時、戦時とは違うことを証明したのである。

厚生労働省は数年前から医師の需給偏在解消、地域医療構想、勤務医師の働き方の3つを三位一体の改革として推進してきた。しかし私は、これは違うとずっと主張してきた。まず医師の需給だけをしっかりと実行すべきである。一県一医大の新設ラッシュで解決するかと思いきや自治医大や地域枠の医師以外はほとんど都市に集中してしまった。また産科や外科はまったく増えていない。ハイリスク・ローリターン、訴訟も多く開業しにくいからである。お産ができない地域が休耕田や空き家の如く日本地図に拡がり続けている。

医師の偏在問題は前世紀からあり審議会に私も関わってきた。プロフェッショナルオートノミー任せでほとんど百年河清を俟つ状態が続いている。一般人の中には医師のプロフェッショナルエゴイズムと糾弾する方さえいる。せめて私の生存中にはどうにかしてほしいものである。

地域医療構想はこの問題と密接であり同時進行もありと思われるが、勤務医(開業医は事業主であり含まれない)の働き方は医師の偏在解消後に進めるべきである。もしこれを守ったならばエクモ装置の方や救急搬送の心疾患の方のかなりの方々が害を被ることになろう。B水準や連携Bを10年続けても百年河清の壁は厚い。また、働き方を守るためには医師を1.4倍にすべきとの統計もある。診療科偏在の解消、そして、厚労省「医療従事者の需給に関する検討会」で相澤先生が指摘した開業医から病院勤務医への移行、加納先生が指摘した女性医師急増を適切に反映した将来推計への見直しも検討すべきである。

三位一体を粛々と進めるというのは地方切り捨ての恐れもあり、JR分社化以上に地方を疲弊させるのでは、と危惧するところである。医療と教育、仕事のない所に人は住めないのだから……。

邉見公雄(全国公私病院連盟会長)[新型コロナウイルス感染症][医師偏在]

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