No.5103 (2022年02月12日発行) P.61
神野正博 (社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院理事長)
登録日: 2022-01-28
最終更新日: 2022-01-28
わがふるさと、能登のミネラルが豊富な赤土が育んだ能登栗。生産量こそ少ないものの、大粒でしっとりとしてクリーミーだ。定番の栗ご飯や焼き栗ばかりではなく、大好きな能登栗のモンブランも絶品だ。また、山野を切り拓いた間道には、秋になると毬栗(いがぐり)がたくさん落ちている。
地元の先輩から、「栗の花を知っているか?」と聞かれた。恥ずかしながら、まったく心当たりがない。花を咲かさなければ実はつかない。いつも通る間道の脇にも咲いているはずだ。
今の時代、インターネットで画像を検索すれば、たくさんの写真が出てくる。てっきり栗色の桃や桜っぽい瀟洒な花だろうと勝手に想像していた。しかし、意外に姿はススキのようで、猫ジャラシのような花だ。やはり、心当たりがない。いや見ていただろうけど、栗とは結びつかず認識の外にあった。
これからの春を告げる梅や桃、桜が楽しみだ。対して、栗の花は認識されない。しかし、その果実は逸品だ。
そこで、松尾芭蕉が「奥の細道」の旅の途中、元禄2年4月に須賀川に訪れた際に読んだ句とされる
世の人の 見付けぬ花や 軒の栗
である。どうも栗の花を認識しないのは、私だけではなさそうである。
人口減と人口構造の変化、それに伴う働き方改革にDX推進と、社会ばかりではなく日本の医療の仕組みでも改善やイノベーションを推し進めなければならないことは自明だ。しかし、その種として皆が異口同音に華やかさを賛美する梅や桜を追い求めていないのか?
地味だが、実りが大きい栗の花を見逃していないか? コロナ禍を理由にやらねばならぬことを留めていないか? 栗の花を意識するように、われわれが地域医療でやらねばならないことに気がつく眼を持とう。そして、そこでの改善とイノベーションを未来の豊かな実に育てようではないか。
神野正博(社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院理事長)[地域医療]