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【識者の眼】「不妊治療保険適用とレセプトによる把握」岡本悦司

No.5103 (2022年02月12日発行) P.63

岡本悦司 (福知山公立大学地域経営学部医療福祉経営学科教授)

登録日: 2022-02-02

最終更新日: 2022-02-02

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体外受精(IVF)や顕微授精(ICSI)といった不妊治療(生殖補助医療、ART)が4月より保険適用される。これにより患者の費用負担が軽減されることが期待されるが、研究者の立場から見れば、これまで自由診療というブラックボックスだった不妊治療の実態がレセプトで把握される点で意義深い。

レセプトが唯一の情報源となる例として自然流産がある。母体保護法に基づく人工妊娠中絶は衛生行政報告例で、12週以降の死産は人口動態統計で、それぞれ把握される。しかしながら、妊娠初期の自然流産は届出義務もなく、正確な発生率はわからない。

そこで役立つのがレセプトデータだ。正常妊娠・分娩は保険診療の対象ではないのでレセプトが出てこないが、自然流産となると保険診療となりレセプトで把握できる。協会けんぽ(全国健康保険協会)が公開するレセプトデータを分析してみた()。自然流産率は高齢出産で高まるので30代女性に焦点をあてると、総人口約686万人中約302万人(約44%)が協会けんぽに加入しておりレセプトで把握できる。2020年度中に「流産(傷病コード1501)」レセプトは6万4308件あった。

レセプト件数は発生数とイコールではなく、慢性疾患では同一人から複数のレセプトが出てくる可能性はあるが、流産は慢性疾患ではないので、レセプト件数はおおむね発生数を表すと考えられよう。傷病名無記載のレセプトが1/4近くあることを考慮しても、この年代の女性の50人に1人は年間に1度は流産を経験していると言える。

自然流産を予防する治療法として着床前診断(PGT)があるが、「生命の選別につながる」という倫理的配慮から保険適用は見送られた。むろんPGTですべての自然流産を予防できるわけではないが、自然流産の何割かを予防できるだけでも万単位の出生増に結びつく可能性はある。倫理的視点もさることながら少子化対策という国益とデータに基づく視点からの検討も期待したい。

【文献】

1)全国健康保険協会データ.

   https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g7/cat740/sb7200/sbb7204/

岡本悦司(福知山公立大学地域経営学部医療福祉経営学科教授)[自然流産]   

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