No.5104 (2022年02月19日発行) P.58
西 智弘 (川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科)
登録日: 2022-02-04
最終更新日: 2022-02-03
早期からの緩和ケアに関して、最近の研究ではnegativeな結果が出ているものが複数報告されている。生存期間の延長どころか、QOLの改善すらも認められない、というものが多い。2010年代に標準治療となった早期緩和ケアだが、最近の考え方はどうなっているのだろうか。
いま一度、歴史を振り返ってみよう。まず注目されたのは2010年のTemelらの報告だ。この研究では、早期緩和ケアがQOLを向上させ、また、生存期間延長が示唆された。その後、世界中から追試が報告されたが、その結果は様々で効果も一定していなかったものの、2017年にコクランレビューを含む2本のシステマティックレビューが公表され、「効果としてはわずかながらもQOLを向上させることが期待できる」とされた。またASCO(米国臨床腫瘍学会)などのガイドラインにおいても、早期緩和ケアの手段としての「腫瘍内科と緩和ケアの統合」を推奨することとなり、早期緩和ケアを何らかの形で取り入れていくことは世界的に標準治療のひとつと位置づけられ決着したかのように思えた。
しかしその後、冒頭に述べたようにランダム化比較試験でnegativeな結果が増えてきた。その背景には、腫瘍内科医自身が提供する基本的緩和ケアの質が向上したことによるのかもしれないし、「癌種や年齢、性別などによって早期緩和ケアの効果は変わるのではないか」といった報告もされる中で、ベストな介入方法が未だ一定しないことに原因があるのかもしれない。わが国においても、がん治療医の基本的緩和ケアの技術は高まってきており、地域や施設によっては早期緩和ケアをしなくても、十分な緩和ケアが提供できているであろう。しかし一方で、早期緩和ケアが必要とされる患者がいることも事実である。どういった患者背景や状況において専門的緩和ケアにつなげるのがベストなのか、まだまだエビデンスには乏しいものの、その受け皿となる外来は確保する必要がある。
1月に私たちが行った全国調査で、多くの病院が早期緩和ケア外来を開設していることもわかってきた(その結果は集計中のため、また稿を改めて報告したい)。その環境の中で、関係者たちが試行錯誤していくことが必要であり、その試みが患者や家族の人生を支えることにつながるのではないかと考えている。
西 智弘(川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科)[緩和ケア]