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【識者の眼】「私たちはコロナ前の世界に戻れるのか?(前編)」小豆畑丈夫

No.5111 (2022年04月09日発行) P.62

小豆畑丈夫 (青燈会小豆畑病院理事長・病院長)

登録日: 2022-03-25

最終更新日: 2022-03-25

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新型コロナウイルス感染拡大第6波が、沈静化してくる様相です。私たちは2年間、この未知のウイルスと格闘してきました。最初はどれくらいの感染力で、感染したらどれくらいの致死率があり、治療はどうしたらいいのか、何も知りませんでした。そのため、医療者もコロナが怖かったのです。それでも、医療者は既存のウイルス学の基礎を信じ、全身をPPEと呼ばれる防護服で包み、見えないウイルスと戦ってきました。

そして2022年3月、私は心境の変化を感じています。今はコロナの感染予防はこうすれば大丈夫と自信を持って言えます。きちんと運営されているコロナ病棟は、感染に対して最も安全な場所であると断言できます。治療に関しても、適切なタイミングで適切な治療薬を用いれば、これくらいの確率で良くなるとわかるようになりました。これで医療者の心理はとても楽になります。緊急的集中的対応が必要となる患者の確率も予想ができますし、その場合の対応も経験済みだからです。新型コロナ診療の不安やストレスはずいぶん軽減しました。

では、これで何も心配ないですね? と言われるとそうでもないのです。今、私には新しい不安が生まれています。それは、コロナが去った後、私たちはコロナ以前の医療に戻れるのだろうか? という気持ちです。私達は新型コロナに対応するためにいろいろなものを犠牲にしました。急性期病棟の半分を潰してコロナ病棟に変換しました。私たちの売りだった救急医療もコロナ対応をメインに据えたために、コロナ対応を行っていない救急病院へ患者さんの移動が起きています。がんの手術もコロナ以前の半分にまで減ってしまいました。

私たちの病院は極端なコロナシフトを敷いて2年間戦ってきたのです。きっと我々は新型コロナとの戦いに勝つでしょう。でも、その後に私たちの病院はコロナ前の病院に戻れるのでしょうか? いや、戻したとしても、この2年で医療ニーズが変わってしまっていて、既に地域の方たちが求める医療ではなくなっている可能性が高いと思います。私達はコロナによる医療需要の変化を検討しました(もうすぐ論文化される予定です)。その結果、患者さんの病院離れ現象が起きていると考えられるのです。ならば、コロナ後に私達はどのような医療を提供すればよいのか、今は逡巡するばかりです。

(このテーマは続きます。次回は、コロナによる医療者の心理の変化について述べたいと思います)

小豆畑丈夫(青燈会小豆畑病院理事長・病院長)[医療の正義⑤]

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