No.5118 (2022年05月28日発行) P.59
堀 有伸 (ほりメンタルクリニック院長)
登録日: 2022-04-25
最終更新日: 2022-04-25
ロシアの侵攻に対してウクライナが頑強な抵抗を示していますが、西側諸国の行動に対するプーチンとロシアの姿勢も強硬さが維持され、事態は予断を許さない状態が続いています。そのような中でインドがロシアとの交流を継続する姿勢を示し、天然ガスなどのエネルギーをより容易に調達することで経済的な利益を享受しようとしているようです。一連の事態を強い関心を持って注視していますが、私は日本が動揺することなく、西側陣営の一員としての振る舞いを継続していることを支持しています。
一つは功利的な理由です。今の安全保障をめぐる環境下で、米国からの信頼を失うことのリスクが大き過ぎます。このような危機的状況で、独自の動きができるような準備を、私たちは行ってきませんでした。
もう一つは、道義的な理由です。近代社会が持つ自由や人権、民主主義の価値観が、異なる文化的な視点から批判されることがあるでしょう。しかしこれらの基礎の上に、現代社会の繁栄が築かれていることは否定できません。近代的な医学も、その成果のひとつです。前近代的な、あるいは民族主義的な言動が美化される場面もあるかもしれませんが、総合的に判断するならば、近代社会の理念はそれまでの人類の歴史を通じて築かれた叡智の結晶だとみなせます。この価値観を尊重する国として、日本が国際的な信用を維持していくことが重要です。その意味では、他の国際的な問題に対しても、たとえばミャンマーの軍事政権などに対して、ロシア政府に示しているほどの毅然とした態度を示して欲しいという願望を、私は日本政府に対して抱いています。
一方で、民主主義的な価値観も、一時と比べると世界的に信用を失っています。その要因のひとつに、それを代表する国家とみなされる米国や西欧の国々の、民主主義的でない、覇権主義的だったり功利的だったりする態度があります。それらは十分に批判されるべきですが、理念を唱える存在と、理念そのものの価値とは分けて考えられるべきです。このような状況で、日本が近代的な価値観を奉じながら独自の存在感を示すような存在であってほしいと願いますが、現状は困難だろうと感じています。いずれにしても、世界が多様化して複雑化する中で、米国との信頼関係を保ちつつも、そこに依存するばかりではなく、自分たちの軸をつくっていく意識も重要になってくると考えます。
堀 有伸(ほりメンタルクリニック院長)[ウクライナ侵攻]