(概要) 第134回日医臨時代議員会が3月29日、開催された。4月から策定が始まる地域医療構想や10月から運用が始まる医療事故調査制度などを巡り質疑が行われた。
第134回日本医師会臨時代議員会が3月29日、開催された。開会の挨拶に立った横倉義武会長は、健康寿命の延伸におけるかかりつけ医の役割を強調。「かかりつけ医による栄養や運動、療養上の指導などの一体的な提供が健康寿命延伸の柱となる」とし、地域医療包括ケア体制の確立にもかかりつけ医の果たす役割が重要と述べた。
横倉会長はこのほか、日医の当面の目標として「日医の組織力強化」を挙げた。 「重要案件に対して医師会の主張を貫くにはより多くの会員の後押しが不可欠」とした上で、都道府県医師会員と郡市区医師会員の日医未加入者(約4万3000人)に対し、日医への参加を働きかける考えを示した。
●「すべての社会資本を動員し皆保険死守」
トップバッターで質問した塩見俊次氏(近畿ブロック)は、医療崩壊に導くキーワードとして「地域医療構想や地域医療連携推進法人制度など約50が挙げられる」とし、医療費削減を前提とする政府の方針で「医療は危険ゾーンに入っている」と訴えた。
横倉会長は政府と地方の長期債務が1000兆円を超える状態にあると説明した上で、「すべての社会資本を動員して皆保険制度を死守していかなくてはならない」と強調。「いたずらに政府と対立するのではなく、是々非々で国民医療に資する政策かどうか判断する」とした上で、「例えば規制改革会議から出てくるような、これは認められないというものに対してはしっかりと主張していく」との方針を示した。
●地域医療構想「じっくり自主的に収斂」
地域医療構想を巡っては、池端幸彦氏(中部ブロック)が慢性期の医療需要に関する見解を質問。地域医療構想策定ガイドライン(GL)では慢性期の医療需要は在宅医療の需要と一体的に推計するとしているが、療養病床の入院受療率は全国で最大約5倍の差があることから、最小値に近づけるための目標も構想区域ごとに立てることとしている。池端氏は「急性期病床からの受け皿機能の必要量など現状を調査し、慢性期の必要病床数を推計しなければ、目標値が1人歩きし混乱をきたす」と指摘し、慢性期機能の必要性を日医が提言すべきと主張した。
中川俊男副会長は地域医療構想のポイントとして、(1)構想区域内で不足している病床を手当てする仕組み、(2)GLを参考に地域の実情に応じた構想を策定すると明記されている、(3)構想策定の中心となる都道府県医療審議会では都道府県医師会が主導的役割を果たすと明記されている─の3点を列挙。(1)については「医療機関が推計を参考にじっくりと自主的に収斂していこうというものであり、既存の慢性期病床が必要病床数を上回っているから病床の転換・削減を強制されるということはない」と強調。(2)については「医政局長からも『GLはあくまで都道府県の取り組みを支援するもの』との発言を得ている」と説明した上で、慢性期病床について「在宅と一体の医療需要と考えることは、ある区域では療養病床が主体、ある区域は在宅中心という構想が策定されてもよいという意味で、決して在宅ありきではない」と述べた。
このほか地域医療構想を巡っては、猪口正孝氏(東京ブロック)が構想区域について質問。大都市圏では患者が2次医療圏を越えて受診する場合が多いことから「例えば東京都は構想区域を2次医療圏単位ではなく全都とする」ことを提案。地域医療構想と医療計画の整合性を図るためにも、まず地域医療構想の上位概念である医療計画を策定し、その上で地域医療構想を作る必要性を指摘した。
中川副会長は、厚労省から「GL自体も地方の自主性を生かせるようにする」との確認を得ていると説明。現行の2次医療圏は200万人を超える圏域がある一方で3万人に満たない圏域もあり、地域の実情を勘案する必要性を重ねて強調した。
関連質問でも病床削減につながる可能性や診療報酬とリンクする可能性を懸念する声が上がった。
青木重孝氏(三重)は「中川副会長のおっしゃることは楽観に過ぎる」と批判。いずれ地域医療構想が診療報酬と連動せざるを得ない状況を厚労省は作り出すとし、「それを分かった上で手を打つのが日医」と訴えた。これに対し、中川副会長は地域医療構想が緩やかな仕組みに落ち着いたことを改めて強調した上で、「地域医療構想が診療報酬とリンクした時点で、大幅な医療費削減をもくろむ病床削減の仕組みに変質してしまう。診療報酬とリンクすることがないよう全力で主張していく」と述べた。
●事故調支援団体「都道府県医は指定を」
個人質問では、3月20日に運用指針案が取りまとめられた医療事故調査制度について質問が寄せられた。清水信義氏(岡山)は、医療機関の調査を支援する「支援団体」のメンバー構成や、事故調査制度に関する都道府県医師会の運営経費の負担のあり方について質問。山田和毅氏(和歌山)は中小医療機関の院内調査で当初から外部支援団体が参加する「拡大院内調査」の義務づけを提案した。
今村定臣常任理事は、支援団体について「各都道府県医師会には指定を受けていただきたい。医師会以外にも大学などが指定を受ける可能性もあり、様々な支援団体が連携しながら有効に機能するには都道府県医師会の役割が重要」と呼び掛けた。
運営経費については「今回の法律の附帯決議でも第三者機関への公的補助を謳っている。支援団体も第三者機関の一部業務を委託されるので、相応の補助を国に働きかけていく」と説明。山田氏の案には都道府県医師会から派遣された委員が最初から院内調査に加わることが考えられるとの見解を示した。
また、運用指針案について議論した厚労省検討会のメンバーである松原謙二副会長は、議論の焦点となった院内事故調査の報告書提出について「報告書が出た時に努力義務として(遺族に)なるべく出す。ただし、内部で意見が食い違っていて結論に至っていないなど合理的な理由がある場合には義務としない」と説明した。
●研修医の会費無料化、来年度実施へ
医師会の組織強化に関する山本楯氏(愛知)の質問には、小森貴常任理事が、今期の倫理資質向上委員会で、2008年以来となる『医師の職業倫理指針』の改訂作業に着手したほか、13年には医賠責保険における指導改善委員会を立ち上げるなどの取り組みを紹介。「こうした取り組みを進め広く社会に発信していくことで、国民やすべての医師からさらなる信頼を集めていきたい」と述べた。
関連で、蓮澤浩明氏(福岡)は、利益追求の医療機関に自浄作用を促すため、支払基金と都道府県医師会が情報を共有する仕組みを構築するよう厚労省に求めるべきと提案。小森常任理事は、「大変重要な視点」として、「国民と患者を守るため、対応していきたい」と応えた。
笠井英夫常任理事は、金沢和俊氏(埼玉)による勤務医の組織率向上に向けた研修医の会費無料化の提案について、来年度より実施する考えを表明。「日医の取り組みを契機に、全国的に広まることを期待する」として、都道府県医師会、郡市区等医師会にも無料化を文書で依頼するとした。
【記者の眼】日医は医療提供体制改革に向けた各施策について現場への影響を最小限にとどめたことを強調した。一方、都道府県医からは制度の運用開始から一定期間経た後の中長期的な影響を不安視する声が多かった。(T)