No.5121 (2022年06月18日発行) P.64
谷口 恭 (太融寺町谷口医院院長)
登録日: 2022-05-27
最終更新日: 2022-05-27
「識者」と呼ばれるには力不足だが、都心部の診療所から総合診療医のホンネを述べたい。今回が全12回の第5回目。
「風邪をひいたから抗生剤ください」と言う患者は最近になってようやく減少したが(患者は抗菌薬を抗生剤と呼ぶ)、単なる風邪に抗菌薬が不要なことを伝えるのに苦労した経験がない医師はほとんどいないだろう。
だが、僕は開業してからはそのような苦労をほとんどしていない。理由は「グラム染色」だ。咽頭痛を訴える患者を診るとき、咽頭スワブのグラム染色を行い、それを画面で見せればかなりの説得力がある。画面を示し、「これはグラム陽性球菌と呼ばれる細菌だけれど、周囲に炎症細胞が見当たらず常在菌と考えられます」といった説明をするのだ。逆に、抗菌薬を必要とする細菌性扁桃炎などの場合は、「これは好中球と呼ばれる一部の白血球が細菌を食べている像です。この細菌に効くと思われる抗菌薬が必要です」といった感じで説明すれば、まず間違いなく納得してもらえる。
グラム染色が有用なのは咽頭スワブだけではない。喀痰、尿沈渣、皮膚、口腔粘膜、子宮頸部スワブ、尿道スワブ、結膜スワブ、肛門粘膜スワブ、などを検体とした検査も可能だ。グラム染色は「グラム陽性/陰性、球菌/桿菌かを鑑別できるだけ」という声があるが、有用性はそれだけではない。炎症の「程度」がわかり、重症度の判断ができることが大きいのだ。「グラム陽性/陰性+球菌/桿菌+重症性」を考慮すれば抗菌薬の選択がスムーズになる。淋菌の場合は尿道(結膜)スワブで瞬時に診断が付き、直ちに投薬を開始できることも多い。
顕微鏡が有用なのはグラム染色だけではない。真菌や原虫にも絶大な威力を発揮する。爪白癬も含めた白癬菌、癜風、カンジダなどは鏡検だけで確定診断が付く。トリコモナスや赤痢アメーバも瞬時に確定できる。疥癬、毛(頭)じらみなどの節足動物による感染症も直ちに診断が付けられ、治療を開始できる。
さらに、病理検査の説明を行うときにも顕微鏡が役に立つ。検査会社からスライドを借りて、それをモニタに映して患者に説明するのだ。これは僕自身の勉強にもなる。
総合診療の教育現場では「グラム染色は必須」なのだが、顕微鏡を机に置いている開業医はそれほど多くないと聞く。こんなにも便利なものを使わないなんて、もったいなさすぎる……。
谷口 恭(太融寺町谷口医院院長)[グラム染色]