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【識者の眼】「再生医療を巡る薬事承認の歴史と現状、そして課題」藤原康弘

No.5123 (2022年07月02日発行) P.56

藤原康弘 (独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長)

登録日: 2022-06-08

最終更新日: 2022-06-08

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日本における再生医療の大きな転換点となった年は2013年であった。まず、「再生医療を国民が迅速かつ安全に受られるようにするための施策の総合的な推進に関する法律」(一般に再生医療推進法:議員立法)が2013年5月10日公布・施行され、引き続き、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」(一般に再生医療新法)と改正「薬機法」が同年11月27日に同日公布(翌年11月25日施行)されたことに始まる。

これらは、近年の医学の発展の成果である、安全かつ有効な再生医療への国民の早期のアクセスを向上するための制度制定と改正であった。まず、再生医療新法は、それまで自由診療で実施されていた幹細胞治療等の安全性を確保するため、規制強化として実施医療機関の届出制度を、規制緩和として医療機関外部施設への細胞加工の委受託を可能とする仕組を導入している。また、薬機法では、企業が製造販売する細胞加工製品と遺伝子治療製品を医薬品や医療機器と並ぶ第三のカテゴリーとして「再生医療等製品」に区分した。この再生医療等製品には、生きた原料細胞が不均質である特殊性等を考慮し、“条件及び期限付き承認制度”が導入された。

条件及び期限付き承認制度は、米国のAccelerated Approvalや欧州の条件付き承認を参考に制度化され、検証的試験により有効性が確認される前でも、有効性が推定でき、安全性が確認できた段階で条件と期限(7年を超えない)を付して承認し、市販後に有効性を検証する仕組みである。誤解のないように付け加えると、再生医療等製品であっても、条件及び期限を付さない通常承認を受けることもできる。

2022年5月現在、12品目が通常の承認、4品目が条件及び期限付き承認を受けている〔期限はそれぞれ、ハートシート(5年、のちに3年延長)、ステミラック®注(7年)、コラテジェン®筋注用4mg(5年)、デリタクト®注(7年)〕。

PMDAでは条件及び期限付き承認への該当性を含めた審査を実施している。しかし、欧米を模した条件付き承認を日本で運用する際、探索的試験で推定された有効性を市販後に前向きなRCTで検証することは、国民皆保険の下では実は相当難しい。先の4品目とも、製品を使用せず治療した患者の成績との外部比較により有効性を確認する計画を立てているが、条件期間後の再度の承認申請時には、医療現場での実績を踏まえての製品の真価をしっかり見極めたいと思っている。日本の再生医療等製品の承認制度は、再生医療へのアクセスに特化した点のみで、他国では例がない大きなチャレンジだと思われがちだが、本当のチャレンジは、再生医療等製品に限らず、市販後の有効性の臨床評価であり、そのための医療現場で収集可能な情報とインフラだと私は思っている。

【参考】

Fujiwara Y, et al:Clin Pharmacol Ther. 2021;109(5):1182-5.

藤原康弘(独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長)[条件及び期限付き承認制度]

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