日本医師会定例代議員会が6月25日、日医会館で開かれ、任期満了に伴う役員選挙の結果、松本吉郎常任理事(67歳)が第21代会長に選任された。代議員会終了後、就任会見に臨んだ松本会長は、日医の「組織力強化」に意欲を示すとともに、「政府与党とのコミュニケーション」を重視する考えを示した。
「日医の分断を回避する」として、当初2期目を目指していた現職の中川俊男氏が5月下旬に会長選への出馬を断念。これにより日医会長選は現職不在のまま執行部内の松原謙二副会長(大阪府)と松本常任理事(埼玉県)が争うという異例の展開となった。
松本氏は5月24日の出馬表明までに関東甲信越、中部、九州ブロックの推薦を獲得。松原氏の出身母体である大阪府医師会の茂松茂人会長も松本陣営に副会長候補として入るなど、松本氏は優位に選挙戦を進め、376票中310票を得て当選を果たした。
副会長選も、松本氏のキャビネットから外れた現職の今村聡氏が立候補したため本格選挙となったが、松本陣営の猪口雄二(東京都)、角田徹(同)、茂松の3氏が当選。ただ、敗れた今村氏も角田氏と23票差の227票を獲得、白票は121票に上り、副会長選は批判票が目立つ結果となった。猪口氏は引き続き全日本病院協会の会長職を兼務する。
11名が立候補していた常任理事選は、玉元弘次氏(千葉県)が直前に辞退したため、松本陣営の10名の候補者が無投票当選となった。
3副会長とともに臨んだ就任会見で松本新会長が強調したのが「組織力強化」と「政府与党とのコミュニケーション」。松本会長は翌26日の臨時代議員会で行った所信表明でも、これらの課題を大きく掲げ、組織力強化については「常任理事の増員」や「卒後5年間の会費無料化」に取り組むとした。
政府与党に対する松本会長の基本姿勢は、中川前会長と異なる。中川前会長の基本姿勢は、時に政権との距離を詰め、時に距離を置くという「是々非々」のスタンスだった。過去の日医会長選は政権与党(自民党)との関係で対峙・対決路線をとるか、対話・協調路線をとるかが最大の争点となり、2000年代以降で見ると、対決姿勢を鮮明にした坪井栄孝会長の引退後、植松治雄会長、原中勝征会長は対峙路線、唐澤祥人会長、横倉義武会長は協調路線をとった(表)。「是々非々」のスタンスをとる中川会長は、大きく分ければ対峙型の会長だった。
就任会見で松本会長は、「自民党との関係で協調路線をとるのか、対峙路線をとるのか」との質問に対し「政府与党とはしっかりと協調し連携をとる」と明言した。対峙型の会長は会内の政策判断のスピードを重視するため、全国の医師会の声をくみ上げるプロセスが疎かになりがちだが、松本会長は地域医師会との連携を重視し「地域から国へ」の流れを再構築する考えだ。26日の所信表明では「現場の声を直接伺うため47都道府県医師会に積極的にお邪魔したい」とも述べた。
問題は、松本氏の協調路線で「かかりつけ医の制度化」などを急ピッチで進めようとする財務省を中心とした政府与党の動きを制御できるかだ。
会見で松本会長は、かかりつけ医登録制などの制度化の動きに対しては「(現在のかかりつけ医機能は)どのような点がうまくいっていないのか、どのような形が望ましいのかというところから議論していくべき」と述べ、「診療報酬改定DX」の名で改定作業の効率化を進める動きに対しては「(中医協を中心とした診療報酬改定のシステムを)いまから根本的に変えていくのはなかなか難しいのでないか」との見解を示した。
財務省は6月24日、事務次官に茶谷栄治主計局長、主計局長に新川浩嗣官房長兼官房総括審議官を充てる人事を発令した。茶谷、新川両氏は診療報酬・薬価をはじめ社会保障政策に精通した人物として知られ、年末の予算編成に向けて財務省主導の医療改革を強行に進める可能性も考えられる。
松本執行部の最初の課題は、組織内候補の自見はなこ氏(自民)を7月10日の参院選で上位当選させることだが、本当の戦いはその先にある。新執行部の常任理事の中には坪井会長時代に中川氏とともに未来医師会ビジョン委員会の提言をまとめた今村英仁氏(鹿児島県)などの顔ぶれもある。政府与党とのコミュニケーションを高いレベルで進めるために、全国から選ばれた副会長・常任理事の力を結集し日医の政策立案能力を早急に向上させることも大きな課題となりそうだ。
【関連記事】