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【識者の眼】「医師の働き方改革と診療科偏在」島田和幸

No.5124 (2022年07月09日発行) P.64

島田和幸 (地方独立行政法人新小山市民病院理事長・病院長)

登録日: 2022-06-29

最終更新日: 2022-06-29

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働き方改革関連法は、人口減少社会において、同一労働同一賃金のルールのもと多様な働き方を促進することを目的としている。これから働き手が大幅に減少していくわが国の雇用制度は、一つの職場で終身雇用される「メンバーシップ型」からフリーランスなど契約に基づく「ジョブ型」の方向に舵を切ろうとしている。

翻って、医師における働き方改革は、もっぱら急性期病院に勤務する医師の長時間労働の規制が問題になっている。このままで医師の勤務時間を制限すると、医師の数が足りなくなり、地域の医療提供体制が崩壊しかねないことが大騒ぎとなっている。今回正式に勤務医を病院に雇用された労働者と定義した結果である。当然、意識改革ばかりでなく相当の体制変革が必要となる。とはいっても、簡単に医師を増やすことも、計画的に医師配置をコントロールすることもできない。短時間勤務制度、タスクシェア・シフトなどの勤務時間短縮計画で講じる様々な対策は、根本的な解決にはならないだろう。なぜなら、たとえ時間外勤務がA(80時間/月)、B・C(155時間/月)水準内に収まっても、なお過労死水準である。

現在、医師の地域偏在で問題にされているのは、人口当たりの医師数である。医師の診療科偏在については、ほとんど手がつけられていない。現場では、総合診療医や救急専門医の不足感が大きい。各病院で時間外勤務が問題となるのは特定の診療科である。診療科偏在を是正するには、各専門領域の医師数を自由に任せるのではなく、第三者が、たとえば総合診療専門医を増やすというような明確な意図を持って、各領域の専門医の配分をコントロールすることが必要だろう。既に地域偏在に関しては、シーリングなどをかけて、医師が都市部に集中することを防ぐ努力をしている。やる気になれば、人口当たりの各領域の専門医の適正配分数を推定することも可能だろう。

医師の働き方改革が、そのような方向に進んだとき、実際に現場で行われている医療の中身も変革しながらの大改革になる。医師を労働者と定義したときと同じように、パンドラの箱を開ける覚悟が必要なのでは?

島田和幸(地方独立行政法人新小山市民病院理事長・病院長)[医師の働き方改革][専門医制度][医師偏在]

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