No.5126 (2022年07月23日発行) P.62
岡江晃児 (杵築市医療介護連携課兼杵築市立山香病院・ソーシャルワーカー)
登録日: 2022-07-05
最終更新日: 2022-07-05
医療ソーシャルワーカーが経験を積み知識や技術を高め成長し続けることは、専門職としての責務である。
しかし、今までの知識や技術が成長の邪魔になり、成長がしにくくなる場合もある。
その場合、今まで身につけてきた知識や技術を、一度柔らかくほぐし直し、そこから新たに発展させていく「アンラーン」という技術が必要になるだろう。
私がスーパービジョン(専門職養成の過程。詳細はNo.5112)に関する相談でよく受ける内容として、部下を指導する立場であるスーパーバイザーによる「中途採用したソーシャルワーカーの指導が難しい」「中途採用したソーシャルワーカーに今までの経験を活かしつつ、新しい考え方や行動をとってほしいけれども、どうしたらいいか」等が挙げられる。その背景として、中途採用されたソーシャルワーカーはある一つの環境に適応し過ぎてしまい、転職のようにひとたび環境が変わったときに今までの思考が通用しなくなってしまうことがある。自信が無くなり前向きな行動ができない、すぐに対応できないと成長を妨げることに繋がってしまう。それはソーシャルワーカーに限った環境ではなく、院内の病棟内異動がある看護師や様々な病院を経験する医師等の医療従事者に共通する課題ではないだろうか。今までの積み重ねた知識や技術の問題ではなく、今までの思考の癖を引きずり過ぎていたことが原因で、新しい環境で行き詰まってしまうことになる。そこで、アンラーンの考え方や技術を通してどんな新しい環境であっても適応していく必要がある。
柳川・為末(2022)は、アンラーンとは、“固定化・パターン化されたしまった思考の癖から脱却すること”と述べ、その実践として、8つを挙げている。
1. 今の会社(環境)じゃなくても適用するか問い直す
2. 今の仕事に就こうと思った理由を問い直す
3. 専門外・業界外の人と話す
4. 多様な人・異質な人と接する
5. 自分について周囲の人にインタビューしてみる
6. 自分の仕事を「専門用語抜きで」説明してみる
7. 本業とは異なる副業をする
8. 「早くなじもう」「それらしくしよう」をやめる
上記の内容は一人だけで行うには高いハードルがあるだろう。そこで、スーパーバイザー(上司)が、スーパーバイジー(部下)とのスーパービジョンや指導等の関係性の中で、アンラーンできる環境を一緒につくっていくことが必要である。スーパーバイザーとの対話を通して、スーパーバイジーが自問自答を繰り返し、自分を客観的に見つめ直すことで、ブレない自分軸を再定義することができる。結果、思考の癖から脱却し環境の変化に適応しながら自らを変化させつつ、専門職として成長し続けていくことができる。
【参考】
▶柳川範之, 他:Unlearn人生100年時代の新しい「学び」. 日経BP, 2022.
岡江晃児(杵築市医療介護連携課兼杵築市立山香病院・ソーシャルワーカー)[教育][アンラーン]