No.5127 (2022年07月30日発行) P.58
岡本悦司 (福知山公立大学地域経営学部医療福祉経営学科教授)
登録日: 2022-07-06
最終更新日: 2022-07-06
某学会は学術大会での演題発表を申込むと、まず800字以内の簡易抄録を提出させ、査読によって採否を決めている。採択されれば、次いで2〜6頁の詳細抄録を提出し、それは学会誌には掲載されないが、学術大会の演題抄録集の付録DVDに「論文」として収録される。そこで問題。抄録の査読の結果、採択となり、次いで提出した詳細抄録は「査読付き論文」として業績目録に記載してよいか?
学会に問合わせると「抄録には査読があるが、採択後に提出する詳細抄録には査読プロセスはないので『査読付き論文』として記載すべきではない」という回答。きわめて常識的な判断であろう。なぜこんな問合わせをしたかというと、学会員の間にも見解の相違があり「査読を経て採択されたのだからDVDに収録された論文も査読付き論文だ」と、業績目録に堂々と「査読付き」と記載する者がいるからである。
査読の有無が問題となるのは、同じ論文であっても研究評価においては査読の有無によって評価が異なるためだ。だからこそ、Researchmapにおいても、大学設置審査の提出書類においても「査読あり」かどうかを明記することが求められる。教員公募や学内昇任審査においても「査読付き論文〇編以上」といった基準を設けているところは多い。
国際誌に掲載された論文が、査読プロセスに問題ありとして出版社により撤回される、という事案が発生した。論文の内容の不正(捏造、改竄、剽窃)を理由に撤回される例はしばしばあるが、査読という「手続き」の問題で撤回というのはあまりない。“RETRACTED”という赤字が痛々しく印字された論文1)の内容を評価する能力は筆者にはないが、57人の被験者にfMRIやDNA分析を行うという本格的なもので、手続き上の瑕疵を理由に撤回されたのでは著者らの心痛は想像に余りある。不適切な査読は「査読あり」とはいえない、が出版社の判断であった。
冒頭の学会については「査読の有無をめぐって学会員にも見解の相違がある。学会としての統一見解をホームページ等で明確にして欲しい」と、一会員としての要望を伝えておいた。もっとも抄録の段階で不採択なら、そんな心配も不要だが……。
【文献】
岡本悦司(福知山公立大学地域経営学部医療福祉経営学科教授)[論文][業績]