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【識者の眼】「流通・薬価制度改革の本格的な議論が始まる」坂巻弘之

No.5128 (2022年08月06日発行) P.67

坂巻弘之 (神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科教授)

登録日: 2022-07-06

最終更新日: 2022-07-06

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「経済財政運営と改革の基本方針(以下、骨太方針)2022」が6月7日閣議決定された。昨年度の「骨太方針2021」では、「薬価算定基準の見直しを透明性・予見性の確保にも留意しつつ図る(以下略)」とされ、また、昨年9月13日に公表された医薬品産業政策の中長期計画である「医薬品産業ビジョン2021」でも、薬価制度と流通改革の必要性を強く指摘している。骨太方針策定に大きな影響を与える、財政制度等審議会が本年5月25日に公表した「建議」では、薬価の毎年改定と調整幅の縮小、保険給付範囲見直し、薬剤費総額マクロ経済スライド制度など、多くのページを割いて薬価に関する論点が示されている。しかしながら、骨太方針2022では、薬価に関する記述はまったくなかった。

2016年12月の「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」に基づき、2021年から「毎年薬価改定」が導入された。毎年改定については、当初から現在に至っても、企業、医師会、薬剤師会等の関係団体から強い反対が示されている。2021年の薬価改定に影響を与えた「骨太方針2020」においては、「新型コロナウイルス感染症による影響も勘案して、十分に検討し、決定する」とされた。骨太方針2022では、参議院議員選挙もあって、毎年改定等に反対する立場にも配慮して既定路線化を避けるため、あえて薬価制度改革に関するすべての論点も方向性も示さず、一切の記述を削除したものと推察される。

一方、骨太方針には記載がなかったものの、薬価制度に関する議論は活発化されつつある。昨年度から、各方面から様々な提言がなされており、また厚生労働省は「医薬品の迅速かつ安定的な供給のための流通・薬価制度に関する有識者検討会」の設置を決めた。7月には、医薬品産業振興等に係る大規模な組織改編を行い、医薬産業振興・医療情報審議官を設置し、産業振興に併せて薬価制度と流通改革のための議論を進めていくものと思われる。イノベーションが適切に評価される薬価算定・再算定方式の議論に加え、薬価調査に基づき薬価改定されることから、不透明な市場実勢価格形成、医療機関・薬局における過剰な値引きによる薬価改定、結果としてイノベーション評価が失われ、さらに特許切れ製品の安定供給が阻害される状況など、薬価をめぐっては、流通に関しても多くの課題が絡みあっている。今後、イノベーション評価に加え、流通改革との一体的な議論が求められる。

坂巻弘之(神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科教授)[薬価]

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