No.5126 (2022年07月23日発行) P.56
鈴木貞夫 (名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)
登録日: 2022-07-07
最終更新日: 2022-07-07
この連載で、「年齢の影響を除くこと」の重要性を何度か述べてきた。国際比較の論文や新聞記事で「超過死亡」は頻出テーマだが、これを死亡の増加の本質ととらえるためには、高齢化の影響がないという暗黙の(しかし日本にとっては非現実的な)前提がいる。
例えば、ランセットの論文1)では、超過死亡数と新型コロナ死亡者数の比の国際比較がなされている。米国が1.37、英国が0.97、フランスが1.28とある中で、日本の比は6.02と極めて高く、計上されていないコロナ関連死が多いという解釈である。超過死亡としては,11万人超が計上されている。
国内では、本年2月25日、日本経済新聞は「21年の死亡数4.9%増、戦後最大」のタイトルで、「新型コロナウイルスだけでなく、運動不足などによる心不全などコロナ禍の余波とみられる死亡数が増加した」と報道した2)。これは、4.9%(6万7745人)の増加が、本質的な死亡の増加(超過死亡)という前提での記事である。
現時点で、5歳階級別の確定数として、2022年までの1月人口と2021年分までの死亡者数が公開されている。これを使って、2018〜21年の4年間の死亡率を直接法標準化で比較してみる。各年の年齢別死亡数を人口で除して死亡率を計算し、その死亡率に基準人口として2021年の年齢階級人口をかけて合計することで、標準化を行う。2018年の死亡率を100とすると、2019〜21年の数値は、順に98.39、95.21、96.93となり、2021年の死亡は、2020年よりは多いものの、それ以前の年よりは少なく、「例年と比べて死亡が多い」という現象は観察されない。したがって、上記ランセット論文も日経記事も額面通りに受け取ってはいけない。
日経はさらに6月4日、「国内死亡数が急増、1〜3月3.8万人増 コロナ感染死の4倍」のタイトルで、「運動不足によって生活習慣病が悪化したり、循環器疾患のリスクが高まったりしたことが死者急増につながった可能性もある」というかなり踏み込んだ仮説を提唱している3)。ここで、2022年1月人口において、2021年と同じ年齢別死亡が起きたと仮定して死亡数を計算する(間接法標準化の考え方の応用)と、144万人程度の死亡が予想され、これは2021年より2万4000人、2020年から見ると9万1000人多い。年齢が考慮されていない指標の比較は要注意である。
【文献】
1)COVID-19 Excess Mortality Collaborators:Lancet. 2022;399(10334):1513-6.
2)日本経済新聞2022年2月25日記事.
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA24DDR0U2A220C2000000/
3)日本経済新聞2022年6月4日記事.
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA021SU0S2A600C2000000/?n_cid=SNSTW001&n_tw=1654339351
鈴木貞夫(名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)[新型コロナウイルス感染症]