No.5128 (2022年08月06日発行) P.66
横山彰仁 (高知大学呼吸器・アレルギー内科学教授)
登録日: 2022-07-07
最終更新日: 2022-07-07
「COPD」の認知度が上がらない。世界第3位の死因であるCOPD(慢性閉塞性肺疾患)という病気が日本ではあまり知られていない。肺気腫・慢性気管支炎という病名が主流であることも理由かもしれないが、現在では世界的・学問的にCOPDと呼ぶべきである。約10年前、健康日本21(第二次)の目標として、当時25%程度であった「COPD」の認知率を80%まで上昇させることが掲げられた。落語家の桂歌丸さんが自ら在宅酸素を使用している重症のCOPDであることを公表し、啓発された頃は30%を超えていたが、現在は28%程度にとどまっている。
COPDに“タバコ病”を付記して認知度を上げる試みもある。ただ、確かに日本では喫煙が主因であるものの、少なくとも1割以上は非喫煙者にも生じており、世界的にはバイオマス燃料が原因であることも多く、必ずしも「COPD=タバコ病」とは言えない。近年では、母親の喫煙や栄養障害、小児期の喘息など多様な因子による最大到達肺機能(肺機能は20歳過ぎで最大となり、以後徐々に低下する)の低下も要因となることがわかってきた。主に高齢者の病気であるが、その根っこは小児期さらには胎内まで遡る場合も多いのである。
わが国の死因順位は高くないが、人種的にCOPDによる死亡が少ないのではない。同じアジア人でも中国では、日本の約30倍で世界一高い死亡率となっている。わが国でも、実はに現れている他の病気の裏に「隠れ」た未診断COPD患者が膨大な数存在し、認識されないものの死亡に間接的に寄与している。隠れCOPDの治療は表の病気の予後の改善に役立つ可能性が指摘されており、たとえば肺癌であっても併存するCOPDの治療を行ったほうが予後がよいとされる。未診断の隠れCOPDが認知され、診断・治療されることは重要と考えられる。
コロナ禍にあってCOPDは重症化リスクとして重要であるが、これがどんな病気か知られていない。我々の努力不足かもしれないが、COPDは予防・治療可能な疾患であるのに、なぜもっと社会に知られていないのだろうか。喫煙がかっこいい時代はとうに過ぎているのに、有名人やマスコミ関係者に喫煙者は多い。彼らはCOPD予備軍であるが、そのことを認めたくないのか、あるいは、スポンサーへの配慮で「タバコ病」を宣伝するのは憚られるのであろうか。はたまたCOPDは喫煙者の自業自得の病気で他人事だから興味をひかないのか。もしそうだとしても、タバコだけが原因ではないし、広くCOPDが認知され、正しく理解されてほしいと願っている。
横山彰仁(高知大学呼吸器・アレルギー内科学教授)[隠れCOPD][タバコ病]