No.5127 (2022年07月30日発行) P.61
西 智弘 (川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科)
登録日: 2022-07-07
最終更新日: 2022-07-07
世界的に、早期からの緩和ケアの方法論が模索され続けている。Temelらが2010年に示した方法は、確かに大きな成果とインパクトを与えたけれども、進行がん患者全員に強制的に専門的緩和ケアが介入するモデルは、実臨床に実装するにはコストやマンパワーの問題で困難であった。その一方で、世界的な研究では介入強度を弱くする(たとえば看護師単独での介入や介入頻度の減少など)ほど得られる効果が落ちることも指摘されており、臨床での実装と介入の強度のバランスを模索することは難しい問題になっている。
その中で、日本では国立がん研究センターが中心となって、苦痛のスクリーニング+看護師主導の専門的緩和ケア介入を検証するJ-SUPPORT1603が実施された。化学療法を導入していく進行肺癌患者206名を無作為に早期介入群と通常ケア群に分け、早期介入群にはスクリーニングを実施し「苦痛やニーズがある」と判定された方へ専門的緩和ケアが入っていくモデルだ。これであれば、国内で行われている臨床から考えてもそれほど大きな負担がなく、実装可能であろう。
では、結果はどうだったか。主要評価項目は3カ月後のQOLの変化であったが、早期介入群は通常ケア群との比較で有意差を示すことはできなかった。また、副次評価項目である抑うつや不安についても差を証明できなかった。つまり、negative studyとして終わってしまったのである。
しかし、実はその後の解析で5カ月後のQOLおよび抑うつについては早期介入群で有意差をもって改善したのである。これは他の研究でも、介入後期になってから差が開いていく現象は指摘されており、本研究でもそれが再現されたことで、本研究のモデルでも早期からの緩和ケアを実践していくことに意味があるとも取れるだろう。ただし、あくまでも5カ月後の結果は探索的なものであり、本試験結果がnegativeであるという事実は冷静に受け止めるべきだ(oncology領域でも、試験結果がnegativeでも臨床的解釈の結果として標準治療と位置づけられているものがあることをふまえても)。
現状として、早期からの緩和ケアを実装していくことにはエビデンスがあり、国策でもある。その実装の手段として、J-SUPPORT1603試験が現実的な方法を示してくれた意義は大きい。我々は、この試験を礎として、より良い介入方法を模索し、これからも検討を続けていくべきであろう。本試験についても、今後も解析を続けていくとのことだったので、続報を期待したい。
西 智弘(川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科)[専門的緩和ケア]