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【識者の眼】「SARS-CoV-2オミクロン株の出現とそれによるCOVID-19の特徴」西條政幸

No.5128 (2022年08月06日発行) P.60

西條政幸 (札幌市健康福祉局・保健所医療政策担当部長、国立感染症研究所名誉所員)

登録日: 2022-07-25

最終更新日: 2022-07-25

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世界保健機関(WHO)が2021年秋に設置したScientific Advisory Group for the Origins of Novel Pathogens(SAGO)は22年6月、Preliminary Report of the Scientific Advisory Group for the Origins of Novel Pathogens(SAGO)と題する提言をWHO事務局長に提出した(https://cdn.who.int/media/docs/default-source/scientific-advisory-group-on-the-origins-of-novel-pathogens/sago-report-09062022.pdf)。

筆者はそのグループの委員のひとりである。レポートの中でSARS-CoV-2オミクロン株の人間社会への侵入源が考察され、3つの可能性が示されている。

1つ目は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の診断のための検査が十分になされていない地域・国で世界的流行から独立した形でSARS-CoV-2流行が続き、そこで独自の変異を獲得したSARS-CoV-2がオミクロン株となった可能性。2つ目は人間社会に入り込んだSARS-CoV-2がある動物種のコロニーの中に入り込み(reverse zoonosis)、そこでSARS-CoV-2に独自の変異が蓄積されオミクロン株となり、再び人間社会に入った可能性。3つ目はHIV感染症等で免疫不全状態にあるヒトの中で長期間にわたり増殖が続いて、その患者の中でオミクロン株に特異的な変異が蓄積された可能性である。筆者はこれら3つの可能性に加えて、第4の可能性も否定できないと考えている。SARS-CoV-2武漢株とは独立してある動物(コウモリと考えられる)からde novoにSARS-CoV-2様ウイルスが人間社会に入り込み、そのウイルスがオミクロン株であるという可能性である。

SARS-CoV-2オミクロン株の起源(origin)は解明されていない。武漢株からデルタ株系統のSARS-CoV-2とSARS-CoV-2オミクロン株間には、ウイルス学的には高い類似性が認められるが、それぞれのSARS-CoV-2による疾患としてのCOVID-19の特徴は大きく異なる。抗原性が異なることによりCOVID-19ワクチン接種者においてもSARS-CoV-2オミクロン株感染による発症事例は稀ではない。

札幌市における2021年3月から7月頃までのアルファ株によるCOVID-19流行では、約4カ月の間に約1万5000人の患者が確認され、重症患者の割合はとても高く致命率は約3.4%であった。高齢者での致命率は30%を優に超えていた。一方、2022年1月以降のオミクロン株によるCOVID-19流行では約半年の間に患者は確認されただけでも約16万人にもなり、実際にはその数倍に上ると考えられる。小児を含めて若い世代の割合が高く、致命率は0.16%であった。SARS-CoV-2オミクロン株は高い伝播性と相対的に低下した病原性という特徴を有する。

オミクロン株によるCOVID-19は武漢株系統SARS-CoV-2によるCOVID-19とは特徴が大きく異なる。感染症法におけるCOVID-19患者の管理のあり方をオミクロン株によるCOVID-19患者に単純に踏襲するべきではなく、実情に合わせた対応を早急に考えるべきだと考えている。筆者はオミクロン株由来COVID-19の病名をCOVID-19からCOVID-21あるいはCOVID-22に変更するのが適切ではないかとさえ考えている。活発な議論を期待したい。

西條政幸(札幌市健康福祉局・保健所医療政策担当部長、国立感染症研究所名誉所員)[新型コロナウイルス感染症]

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