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【識者の眼】「不定愁訴は老化による内因性症状か」上田 諭

No.5130 (2022年08月20日発行) P.66

上田 諭 (東京さつきホスピタル)

登録日: 2022-07-27

最終更新日: 2022-07-27

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高齢者にはいわゆる不定愁訴がつきまとう。頭痛、ふらつき、めまい、吐き気、胸苦しさなどである。医療機関で身体的検索をされても異常がみつからず、「トシのせいだから仕方ない」「気にしすぎなのでは」と医師から指導を受ける。それでも納得できず、精神科に紹介されてくる人が少なくない。

精神科を受診した80代のある男性は、この3年、内科、耳鼻科、脳神経内科にかかって精査を受け、異常はみつかっていなかった。頭の重い感じ、歩行時のふらつき感、胸のむかむかの症状があったが、とりわけ強いわけでも常時あるわけでもなく、1日に数回、数分だけ感じられるだけだという。ある医師から、加齢で身体機能が低下するフレイルだと指摘されたが、男性は毎日1時間ほどウォーキングをしていて筋力は保たれ、食事もとっているという。認知機能の低下はなく、話しぶりには活気があった。別の医師からは「これだけ元気で生活できているのだから十分では」と言われたが、以前はみられなかった症状がどうしても気になるという。

身体的原因のみつからない高齢者の身体症状に、精神科ではうつ病か身体症状症を疑うが、男性には活力があり抑うつ的な症状はなく、また身体症状を誘発するような心理的原因(心因)も見当たらず、どちらの診断も当たらない。

ところが、どうしても治療を受けたいという希望で処方したオランザピン1.25mg(適応外使用)の内服で、3年続いていた症状がほぼ消失し、男性は初めて満面の笑顔を見せた。

これをどう考えればよいのか。オランザピンは統合失調症、双極性障害の躁うつ症状に適応のある向精神薬である。男性の不定愁訴は何が原因だったのか。身体因は否定されており、薬でほぼ完治したことから心因性でもない。症状からうつ病性でもない。

精神科では古くから、脳に原因不明の要因のある疾患を内因性と呼ぶ(統合失調症もうつ病も内因性疾患である)。高齢者の不定愁訴は、老化がもたらす内因性症状と呼べるのではないか。とすれば、難治な不定愁訴も向精神薬で軽快する可能性がある。

上田 諭(東京さつきホスピタル)[高齢者医療]

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