No.5130 (2022年08月20日発行) P.60
島田和幸 (地方独立行政法人新小山市民病院理事長・病院長)
登録日: 2022-07-27
最終更新日: 2022-07-27
2年ごとの診療報酬の改定論議では、支払い側と診療側で正反対の意見が対立しています。国の収入がまったく伸びていない“失われた30年”の現実をみれば、これ以上社会医療福祉費に支出を増やすわけにはいかない。片や、利益率ほとんどゼロ%で蓄えもなく、将来の展望もない診療側は、人件費や医療材料費などが毎年確実に上昇する分だけはせめてコストを確保しておきたい。私たちは、「国民皆保険」や「フリーアクセス」という世界に冠たるシステムを誇ってきたけれども、それが如何にすれば持続可能になるのか、医療の経済面について、正面から議論してこなかった「つけ」がまわっていると感じています。これらは、マクロの医療経済学ですが、個々の医療技術についてミクロのレベルでも同様です。
現在、わが国で行われている医療の中で、そのコスト感覚に疑問を覚えるケースがしばしばあることを感じている医療従事者は、決して少なくないと思います。私の専門領域でいうと、降圧薬療法や心血管インターベンション治療など、医療経済学的側面をあまり重視せず、僅かな差でも“良いものがいいに決まっている風潮”がはびこってきたと思います。何故、わが国で、コストの疑問が表に出てきにくいのか、それには患者および医療機関側の双方の事情があると思います。患者にとっては、低コスト医療に慣れきっており、高額医療でさえも限度額適用で、コスト感覚は醸成されません。一方、医療機関にとっては、医療収入=患者単価×患者数である以上、どんどんイケイケ状態になりがちです。
一方、欧米の医学論文は、早くから医学的側面のみならず、費用対効果についての経済的側面を同時に考察していました。1980年代初めLancet誌上でアルツハイマーに抗生物質を投与することが妥当かの議論が掲載されていたのに驚いたことを覚えています。
結局、第三者視点で、医療のリーズナブルな適用の仕方を決めるのはアカデミア(医学会)がカギを握っていると思います。純粋医学的議論にとどまらず、他のステークホルダーから“独立”して、医療経済学的側面も重要視して、学会が社会に提言することが望ましいのではないでしょうか。
島田和幸(地方独立行政法人新小山市民病院理事長・病院長)[医療経済学][費用対効果][医学会]