No.5129 (2022年08月13日発行) P.57
松村真司 (松村医院院長)
登録日: 2022-08-04
最終更新日: 2022-08-04
2022年7月13日付のニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスン誌は、ビベク・マーシー米国公衆衛生局長官による「医療職のバーンアウトとウェル・ビーイングに立ち向かって」という論説を掲載した1)。その中で、過去3年の新型コロナウイルス感染症との闘いの中で、多くの医療職がバーンアウトの危機の渦中にあると指摘し、早急かつ大胆な対策を求めた。さらに、「バーンアウトは個々の現象として現れるが、根本的には医療システムに起因している」とし、抜本的なバーンアウト対策を求めている。
もちろんこれは米国だけの現象ではなく2)、わが国においても同様に医療現場でバーンアウトが高率に発生しているとの報告が既になされている3)〜5)。パンデミックの初期には主として感染症の治療にあたっている限られた医療職の現象であったが、感染者数が爆発的に増加した現在、わが国の多くの医療現場、特にプライマリ・ケアの現場へと広まっていると思われる。
当院のような小さな町の診療所においても発熱患者の爆発的増加とともに対策が追いつかず、その影響は計り知れない。直接の患者対応のみならず、次々と出される行政からの通達とその対応、発生届に代表される種々の入力作業をはじめとした関連業務に忙殺されている。さらに、感染者や濃厚接触者による休業者が増えることによって、残されたスタッフの業務がさらに過重になるという悪循環に陥っている。多くの医療職はパンデミックの当初から一般の人々よりも強い行動自粛が求められており、長期にわたる行動制限による強い精神的負荷にさらされてきたため、バーンアウトのリスクはさらに高まっている。
第6波に至るパンデミックの波を、一般の人々とともに乗り越えてきたわが国だが、第7波はこれまでとは比較にならない大きな負荷が医療現場にかかっており、既に限界点を越している。医療者の健康と安全を守ることができなければ、国民の健康を守ることは不可能である。今私たちに必要なことは、より一層の我慢や忍耐ではなく、医療者のバーンアウトを防ぐための科学的な物質面・精神面双方における支援策である。
【文献】
1)Murthy VH:N Engl J Med. 2022 Jul 13. doi:10.1056/NEJMp2207252. Epub ahead of print. PMID:35830683.
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMp2207252
2)Amanullah S, et al:Healthcare (Basel). 2020;8(4):421.
3)山蔦圭輔:日医療病管理会誌. 2022;59(2):56-67.
4)Matsuo T, et al:JAMA Netw Open. 2020;3(8):e2017271.
5)Nishimura Y, et al:Int J Environ Res Public Health. 2021;18(5):2434.
松村真司(松村医院院長)[新型コロナウイルス感染症]