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【識者の眼】「カルタヘナ法がウイルスベクターを使った医薬品の開発を阻害してるって、本当?(その3)審査はどこで行っている」藤原康弘

No.5133 (2022年09月10日発行) P.63

藤原康弘 (独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長)

登録日: 2022-08-07

最終更新日: 2022-08-05

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今回は、カルタヘナ法運用のややこしさの一因である、「使用目的によって行政側の窓口が異なる」という点について述べる。

カルタヘナ法の承認・確認申請先窓口は遺伝子組換え生物の使用目的に応じて異なる。農作物は農林水産省消費・安全局農産安全管理課であり、遺伝子組換え大豆や遺伝子組換えジャガイモを栽培したいのであれば、ここに申請することになる。ウイルスベクターの開発では、ヒトに用いる前に有効性が期待できるベクター候補を探し、実験データを積み重ねて臨床試験に用いるための最終候補を選ばなければならない。このような、開発初期の人への投与を行う前の段階では文部科学省の所掌となる。最終候補を決定し、ヒトへの投与の段階になると、今度は厚生労働省の所掌となる。厚生労働省の中でも、治験以外の臨床研究であれば大臣官房厚生科学課、治験ならば医薬・生活衛生局医薬品審査管理課(医薬品)または同局医療機器審査管理課(医療機器、体外診断薬、再生医療等製品)が担当課となる。開発段階などに応じて窓口が変わることが、ユーザーから見るとわかりにくい点である。

治験に用いる場合は、医薬品等の審査に関連する業務の一環として、カルタヘナ法に関する審査の実務をPDMAが行っている。カルタヘナ法に基づく承認の判断が厚生労働省の審議会による審議からPMDAの審査に移った2016年以降、PMDAはカルタヘナ法に関わる審査について欧米との事務処理期間で遅れが発生しないようにしてきた。標準的な事務処理期間の設定や実際の審査に要した時間の公開(https://www.pmda.go.jp/about-pmda/annual-reports/0001.html)、産官学による定期的な議論などを行っている。詳細は次回述べるが、2019年以降、特にこの1〜2年で厚生労働省所管のカルタヘナ法の運用は、時間的にも質的にも劇的に改善している。

一方、文部科学省では、標準的な事務処理期間の設定や実際の審査に要した時間の公開などは行われていない。文部科学省の審議会や委員会の資料や議事録なども、厚生労働省に比べて公開されていないものが多い。PMDAが審査期間等を公開しているのは、少しでもドラッグラグをなくすべく行政と業界、アカデミア、患者団体が喧々諤々の議論をしてきた結果である。文部科学省の所掌範囲についても、研究者の方たちが文部科学省とあるべき姿について喧々諤々の議論を行うような姿勢が、日本発のシーズとして他国より先に医薬品等を開発するための大きなカギのひとつとなっているのではないだろうか。

■本シリーズ
(その1)カルタヘナ法とはどんなもの
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=20165
(その2)第一種使用(開放系での使用)と第二種使用(閉鎖系での使用)とは
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=20166
(その3)審査はどこで行っている
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=20167
(その4)米国での開発の方が楽なんてことはありません
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=20168
(その5)厚生労働省・PMDAの行ってきた運用改善
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=20169

藤原康弘(独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長)[遺伝子組換え生物

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