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【識者の眼】「カルタヘナ法がウイルスベクターを使った医薬品の開発を阻害してるって、本当?(その4)米国での開発の方が楽なんてことはありません」藤原康弘

No.5134 (2022年09月17日発行) P.64

藤原康弘 (独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長)

登録日: 2022-08-08

最終更新日: 2022-08-05

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今回は、欧米でのカルタヘナを巡る運用実態を紹介してみたい。

カルタヘナ法の存在がわが国におけるウイルスベクター製品開発の障壁となっているのではないかという議論はかねてからあった。しかし、カルタヘナ法の骨格は欧州各国の国内法を基につくられており、その規制は欧州と大きな違いはない。欧州でも、臨床試験に入るときには遺伝子組換え生物が生物多様性へ与える影響について国ごとに審査を受ける必要があるが、この審査は欧州各国の国内法で処理されるため、ルールや事務処理期間はバラバラであり、混乱のもととの非難も出ている。

独、仏といった技術の水準がわが国と同等と考えられる国における審査に要する時間は日本と大差ない。加えて、薬事承認申請の際には別途、欧州医薬品庁(EMA)により遺伝子組換え生物の審査を受ける必要があるため、わが国よりも必要とされる審査は多い。わが国では、基本的に治験段階で審査を1回で済ませて、承認審査の段階ではそれを踏襲している。

また、米国と比べるとわが国の規制が厳しいとの声もあるが、米国は「生物の多様性に関する条約」を締結していないほぼ唯一の国であり、環境については国際的な協調路線よりも自国のバイオテクノロジー産業の保護を優先するという考えであるため、わが国の環境へのスタンスを米国と合わせるということは、「遺伝子組換え」というワードに比較的悪印象を持つ日本国民の理解を得るのに多大な労力が必要となるように思う。

なお、米国でも臨床試験を初めて行う時点での環境への影響評価が必須ではないだけであって、遺伝子組換え生物のリスクに応じて、開発の適切な段階での評価が求められている。つまり、薬事承認審査の段階では、日本や欧州と同じレベルの環境への影響評価に関する情報を規制当局に提出することになっており、日本のカルタヘナ法が開発障壁となっているという印象が持たれていたのは、過去、申請者および行政のカルタヘナ法手続の熟練度不足と、一部の運用が実態とかみ合っていなかったためと考えられる。厚生労働省とPMDAは運用の改善に取り組み、上記の懸念は過去の遺産になっていると思う。

行ってきた運用改善については次回に述べる。

■本シリーズ
(その1)カルタヘナ法とはどんなもの
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=20165
(その2)第一種使用(開放系での使用)と第二種使用(閉鎖系での使用)とは
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=20166
(その3)審査はどこで行っている
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=20167
(その4)米国での開発の方が楽なんてことはありません
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=20168
(その5)厚生労働省・PMDAの行ってきた運用改善
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=20169

藤原康弘(独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長)[生物の多様性に関する条約][遺伝子組換え生物

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