株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「カルタヘナ法がウイルスベクターを使った医薬品の開発を阻害してるって、本当?(その5)厚生労働省・PMDAの行ってきた運用改善」藤原康弘

No.5135 (2022年09月24日発行) P.62

藤原康弘 (独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長)

登録日: 2022-08-09

最終更新日: 2022-08-05

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

我々が運用を大きく改善したのは2016年である。それまではカルタヘナ承認の可否は年に数回しか開かれない厚生労働省の部会で審議して決めていた。2016年以後はPMDAが専門家の意見を聞いた上で審査を行い、部会には承認後に事後報告すればよいこととなり、部会の開催タイミングに依存したタイムロスがなくなったことに加え、PMDAが柔軟に対応することが可能となった。

PMDAは審査の運用実態なども精査し2019年以降、大きな運用改善を次々と行ってきた。たとえば、申請前に正式に相談する窓口が存在しなかったので、カルタヘナ法に特化した事前面談(無料)・対面助言(有料)を設定し、我々とよく相談した上で申請を行えるようになった。また、開発段階に応じて文部科学省から厚生労働省に窓口が変わるという問題についても、文部科学省と厚生労働省の申請の重複部分は柔軟な対応が可能となるようにルールを改めた。さらに、承認後にルールを変更したい場合の変更手続きを容易にするなど、無駄な作業が発生しないように改善を行った。

これら以外にも、申請者の熟練度を上げるために、PMDAのウェブサイトに記載方法の例示や解説などをアップロードし(https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/cartagena-act/0006.html)、経験のない申請者であっても容易に完成度の高い申請書を作成できるように支援している。

これらの運用改善によって、現在のカルタヘナ申請の処理時間は劇的に改善され、実際に2021年度のPMDAの審査と厚生労働省の事務処理を合わせた総事務処理期間の実績は第一種2.7カ月、第二種0.8カ月(いずれも中央値)であり、遺伝子治療用製品等の開発の障壁に厚生労働省・PMDAはなっていないと断言できる。

余談であるが、ウイルスベクタータイプの新型コロナウイルス対象ワクチンについては、上述以上の特別な対応(すべての関係者の努力を含む)を行っている。本来なら申請者の処理時間を加えると半年近くかかってしまう審査を薬事審査と並行して1カ月あまりで完了しており、カルタヘナ法はまったく律速になっていないことを申し添える。

■本シリーズ
(その1)カルタヘナ法とはどんなもの
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=20165
(その2)第一種使用(開放系での使用)と第二種使用(閉鎖系での使用)とは
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=20166
(その3)審査はどこで行っている
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=20167
(その4)米国での開発の方が楽なんてことはありません
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=20168
(その5)厚生労働省・PMDAの行ってきた運用改善
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=20169

藤原康弘(独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長)[生物の多様性に関する条約][遺伝子組換え生物

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top