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【識者の眼】「日本版敗血症診療ガイドライン2020バンドル:急性期治療を束ねて」小倉裕司

No.5132 (2022年09月03日発行) P.63

小倉裕司 (大阪大学医学部附属病院高度救命救急センター、日本版敗血症診療ガイドライン2020特別委員会委員長)

登録日: 2022-08-08

最終更新日: 2022-08-08

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敗血症患者のケアを最適化することを目的として、2021年2月に日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2020が、10月には国際版のSurviving Sepsis Campaign Guideline (SSCG)2021が出版された。J-SSCG2020は、一般臨床家だけでなく多職種医療者を対象としてバランスよく急性期管理が取り上げられ、国内外で通用する質の高い診療ガイドラインとなった。一方SSCG2021は、経済状況の異なる国々の医療者および政策立案者を対象として急性期だけでなく長期的ケアにも重点が置かれ、社会的な視点を重視した国際ガイドラインとなった。J-SSCG2020では22領域118の臨床課題(CQ)、SSCG2021では8領域93CQが取り上げられ、いずれも治療指針は多岐にわたるため網羅的に把握することは容易ではない。

SSCGは、重要な急性期管理を束ねて(バンドル化)表示することで、診療の質の向上に積極的に取り組んできた。SSCG2008年版では、resuscitation(6時間)& management(24時間)バンドルが初めて提示され、その後は徐々に科学的根拠を十分持った項目に絞られ、時間も迅速化した。結果、2012年版では3時間&6時間バンドル、2018年にはついに1時間バンドル1)となり、項目も①血中乳酸値の測定、②抗菌薬投与前の血液培養採取、③広域抗菌薬の投与、④低血圧に対する晶質液の急速投与開始、⑤初期輸液不応時の血管作動薬投与、の5つに絞られた。日本救急医学会で行われた多施設研究MAESTROでは、敗血症患者のバンドル遵守が1時間遅れるごとに有意に死亡率が上昇することが示された2)

本年5月に公開されたJ-SSCG2020バンドル3)では、患者の評価と初期治療を効率よく迅速に進めることを目標として、重要な診療項目を時間軸に沿って提示しており、視覚的にも臨床で使いやすいものとなっている。主に3つのパートに分かれ、まず、①敗血症疑い患者のバイタルサイン評価として5項目(意識、収縮期血圧、脈拍、呼吸数、体温)が取り上げられた。次に、②同時並行で進める初期治療バンドルとして重要項目(血液培養、適正抗菌薬、初期蘇生・血管作動薬、強心薬・ステロイド、感染巣対策)が抽出されている。さらに、③ICUにおける急性期介入として抗菌薬、栄養、リハビリ、患者/家族中心のケア、鎮痛・鎮静、呼吸管理、DIC対策が選択された。

本バンドルは、緊急性が求められる敗血症診療の重要項目を遅延なく施行するチェックリストの役割も担う。今後、臨床におけるバンドルの有用性を多施設研究などで検証する必要があるが、国内外の診療および教育の現場で大いに活用されることが期待される。

【文献】

1)Levy MM , et al:Crit Care Med. 2018;46(6):997-1000.

2)Umemura Y, et al:PLoS One. 2022;17(2):e0263936.

3)https://www.jaam.jp/info/2022/files/20220519.pdf

小倉裕司(大阪大学医学部附属病院高度救命救急センター、日本版敗血症診療ガイドライン2020特別委員会委員長)[敗血症の最新トピックス

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