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【識者の眼】「遠隔ICUは敗血症診療のゲームチェンジャーになりうる」井上茂亮,高木俊介

No.5133 (2022年09月10日発行) P.61

井上茂亮 (神戸大学大学院医学研究科外科系講座災害・救急医学分野)

高木俊介 (横浜市立大学附属病院集中治療部)

登録日: 2022-08-15

最終更新日: 2022-08-15

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敗血症は、感染症に伴う生体反応が生体内で調節不能な状態となった病態であり、生命を脅かす臓器障害を引き起こす1)。このため敗血症の早期認知と早期治療、そして質の高い継続的な集中治療は、患者救命と社会復帰の鍵である。米国集中治療医学会の集中治療室(ICU)の入退室とトリアージに関するガイドラインにおいても、生命の危険がある敗血症患者は集中治療室に入室させることを推奨している2)。しかしながら集中治療専門医は全国でわずか2000人あまりと非常に少なく、また都市部に偏在している。このため、現実としてICUに入室している多くの患者が集中治療専門医による治療を受けることができていない。

その問題解決として今、「遠隔ICU」という新たな医療システムが注目されている。遠隔ICUは、1998年に米国Johns Hopkins大学病院の集中治療医により開発され、2000年より臨床現場へ導入された複数のICU病棟に対し遠隔で診療支援を行う仕組みである。すなわち、複数のICU病棟で遠隔ICUシステムを構築し、各病棟から質の高い医師・看護師を支援センターに派遣し、その技術や知見を全体で共有することにより、重症患者のアウトカムを改善している3)。遠隔ICUは、診療の質の向上・教育の向上・急変の早期認知や対応などの危機管理・ユニットやスタッフのトラブルシューティングなど数多くのメリットをもたらす。このためわが国でも昭和大学医学部附属病院や横浜市立大学医学部附属病院など、遠隔ICUシステムを導入する施設が増加している。

近年、遠隔ICUは敗血症患者における治療実施率やアウトカムを改善することが報告されている。米国では遠隔ICU導入後に、抗菌薬投与率・血清乳酸値測定率・中心静脈ラインの設置率・輸液蘇生達成率など敗血症初期診療バンドルの遵守率が改善している4)5)。さらに驚くべきことに、わが国でも横浜市立大学附属病院集中治療室において、遠隔ICU導入後に敗血症死亡率は34から22%まで有意に低下している。

このように遠隔ICUシステムは革新的なイノベーションであり、敗血症患者の予後を劇的に改善する「ゲームチェンジャー」になる可能性を秘めている。

【文献】

1)Singer M, et al:JAMA. 2016;315(8):801-10.

2)Nates JL, et al:Crit Care Med. 2016;44(8):1553-602.

3)Fusaro MV, et al:Crit Care Med. 2019;47(4):501-7.

4)Deisz R, et al:J Med Internet Res. 2019;21(1):e11161.

5)Rincon TA, et al:Telemed J E Health. 2011;17(7):560-4.

井上茂亮(神戸大学大学院医学研究科外科系講座災害・救急医学分野)
高木俊介(横浜市立大学附属病院集中治療部)[集中治療][救急]敗血症の最新トピックス

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