No.5134 (2022年09月17日発行) P.60
谷口 恭 (太融寺町谷口医院院長)
登録日: 2022-08-23
最終更新日: 2022-08-23
「識者」と呼ばれるには力不足だが、都心部の診療所から総合診療医のホンネを述べたい。今回が全12回の第8回目。
おそらく僕以外の誰も言わない「外国人患者を受け入れる上でとても大切なこと」がある。まずは2つの症例を紹介しよう。
1例目は米国籍の40代男性。当院には主に生活習慣病で数年前より通院中。ある日、持病のADHDが悪化し精神科受診を希望した。大阪府のリストで「英語対応可」としているクリニックのひとつに問い合わせ、電話対応も英語で行ってもらえることを確認した上で紹介した。しかし患者が電話をすると英語がまるで通じず受診できなかった。
2例目は比国籍の30代男性。当院には数年前よりプライマリ・ケアで通院中。ある日、皮膚腫瘍の手術を希望し大阪市立の総合病院を受診することになり当院から予約を入れた。ところが前日の木曜日(当院は休診)に都合が悪くなり患者自身がその病院に電話をすると英語が通じずに一方的に電話を切られた。翌日の受診予定日に「患者が来ない。通訳を用意していたのにどうしてくれる!」と猛烈な勢いでその病院から苦情の電話がかかってきた。電話をとった当院のスタッフは謝罪を強制させられた。
1000床以上の病床を持つ公立病院が「英語で電話を受けられない」ことは異常ではないだろうか。「英語で電話をするな」というのなら、なぜ病院のウェブサイトに英語版をわざわざつくるのか。
1例目のクリニックのように、府への届け出では「英語対応可」としていても「英語で電話ができない」医療機関は非常に多い(というより大阪府ではほとんどがそうだ)。だが、これでは実際の対応ができないことは患者の立場で考えれば明白だろう。「突然受診できなくなった」や「道に迷った」ときだけではない。「処方された薬で副作用が出た」「症状が急変した」といった場合にその医療機関に電話ができないことがどれだけ患者を不安にし、苦しめるかを想像してほしい。
では、英語で予約のキャンセルを聞いたり、道案内をしたり、緊急を要する場合に医師につないだり、といった対応をできる日本人は稀なのだろうか。そんなことはないだろう。ある人材派遣会社に聞くと「英語を使う仕事」は大変人気があるという。ごく簡単な英語を話せる受付スタッフを雇用すれば、日本の外国人問題の大半は解決することを僕は確信している。
谷口 恭(太融寺町谷口医院院長)[外国人診療]